乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【真夏の果実】

(ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…キーッ…プシュー…)

時は6月24日の朝6時40分頃であった。

JR松山駅のプラットホームに夜行快速ムーンライトが到着した。

ショルダーバッグを持って列車を降りた私は、陸橋を渡って3番線ホームへ向かった。

(ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)

私は、松山駅から各駅停車の伊予市行きの列車に乗って西へ向かった。

三行広告《こうこく》に記載されていたヤクソクの時刻は…

たしか、昼の12時だった。

あの三行広告《こうこく》を新聞に載せたやつは、一体誰やねん…

『人が不幸になるところをみしたる…』…と言う目的で三行広告《こうこく》を出したヤツは、心がものすごくまずしい人間だと思っている…

…………

あの三行広告《こうこく》を出したやつの目的はなんやねん…

分からなくなった…

(ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…キーッ…プシュー…)

朝8時頃であった。

私が乗っている各駅停車の列車がJR伊予市駅に到着した。

ショルダーバッグを持って列車を降りた私は、改札口を通って駅の外へ出た。

いよてつ郡中港駅は、横断歩道を渡ってすぐのところにあった。

私は、左腕につけているムーンフェイズ(腕時計)を見た。

時計のはりは、朝8時21分をさしていた。

ヤクソクの時間まで3時間半以上ある…

私は、駅を出たあと五色姫海浜公園へ向かって歩いた。

(ザザーン、ザザーン、ザザーン、ザザーン…)

ところ変わって、五色姫海浜公園のビーチにて…

ベンチに座っている私は、ウォークマンで歌を聴きながら海をながめていた。

イヤホンからサザンオールスターズの全曲集に収録されている歌がたくさん流れていた。

『勝手にシンドバッド』『いとしのエリー』『チャコの海岸物語』『涙のキッス』『真夏の果実』…

その中で、『真夏の果実』を繰り返して聴いていた。

気になる…

きのうのデイリースポーツに出ていた三行広告《こうこく》がものすごく気になる…

ゆりこと健太が引き裂かれるところをみしたる…というのはどう言うことか?

気になる…

(ピッ、カチャッ…)

私は、ウォークマンの演奏ボタンを止めたあとイヤホンを耳から外した。

(ザザーン、ザザーン、ザザーン…)

その後、私は波の音を聞きながら考え事をした。

またところ変わって、いよてつ郡中港駅の待合室にて…

ショルダーバッグを持っている私は、駅の待合室に入ったあと左腕につけているムーンフェイズ(腕時計)を見た。

「11時半…」

きのうの三行広告《こうこく》に記載されていたヤクソクの時刻は12時であった。

ヤクソクの時刻まであと30分…

その時であった。

(ポンポン…)

私の後ろにいた黒スーツ姿の男が私の肩をたたいた。

男は、ふりむいた私に四つ折りの愛媛新聞を渡した。

男は『テレビ番組欄に三行広告《こうこく》がある…』と私に言うたあとすぐに立ち去った。

私は、すぐにテレビ番組欄を見た。

男が言うた三行広告《こうこく》は、NHK教育テレビの表の一番下(深夜0時の部分)にあった。

JR伊予市駅から海回りルートの列車に乗って伊予上灘駅《いよかみなだ》へ向かえ…

またJRに乗って行くのか…

(ビーッ、ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…)

私は、JR伊予市駅から海回り経由の八幡浜行きの各駅停車の列車に乗って旅に出た。

列車は、12時半くらいに伊予上灘《いよかみなだ》駅に到着した。

ショルダーバッグを持って列車を降りた私は、プラットホームのベンチに座っていた黒スーツ姿の男と会った。

男は、四つ折りのデイリースポーツを私に渡したあとすぐに立ち去った。

受け取った新聞にピンク色のフセンシが貼られていたのを見た私は『やつらがフセンシを貼ったページはお色気欄だ…』と思いながら紙面をひらいた。

そしたら…

やっぱりそうだった…

あいつらは、私をおちょくっとんか…

私は、ブツブツつぶやきながらピンク色の蛍光ペンで囲まれている三行広告《こうこく》を読んだ。

シーサイド双海(海浜公園)にある恋人の聖地のモニュメントへ行け…

私は、三行広告《こうこく》にしたがってシーサイド双海へ向かった。

またところ変わって、シーサイド双海(海浜公園)にて…

私は、公園内にある恋人の聖地のモニュメントへ向かって歩いた。

公園に入ってから10分後であった。

あっ…

あった…

あれが恋人の聖地百選に選ばれたモニュメントだ…

私は、恋人の聖地百選に選ばれた記念のモニュメントの付近に到着した。

この時、モニュメントの前で結婚式がとり行われていた。

挙式は、二組合同で行われていた。

私は、死角の部分から様子をうかがった。

一組は、ゆりこと見知らぬ男…

もう一組は…

男の弟くんと別の女性…

…だった。

あの三行広告《こうこく》を出したヤローは、結局なにが言いたかったのか…

アホくさ…

時は、午後1時50分頃であった。

ところ変わって、JR伊予上灘《いよかみなだ》駅のプラットホームにて…

私は、このあと上りの各駅停車の列車に乗って松山駅へ向かうことにした。

行方不明になっているゆかさんを一刻も早く見つけないと…

その前に…

道後温泉《どうご》の置屋《おきや》にいるドナ姐《ねえ》はんに会いに行こう…

ゆかさんの居場所を知っているのはドナ姐《ねえ》はんだけ…

列車《きしゃ》はまだこんのか…

その時であった。

ベージュのワンピ姿のドナ姐《ねえ》はんがものすごい血相で私のもとにやって来た。

「よーくん大変よ!!ニュース速報が入ったわよ!!」
「ドナ姐《ねえ》はん。」

ドナ姐はんは、ハンドバッグの中からソニーのマイクロテープレコーダーを取り出した。

私は、おどろいた声でドナ姐《ねえ》はんに言うた。

「ニュース速報って、なにがあったのですか?」
「と、と、とにかくしっかりと聞いて!!」

(カチャッ…)

ドナ姐《ねえ》はんは、マイクロテープレコーダーの再生ボタンを押した。

スピーカーから昼12時55分に放送された南海放送ラジオの愛媛新聞ニュースが流れた。

ニュース原稿を読んでいた田中和彦アナウンサー(現・南海放送社長)が、冒頭で『たった今入ったニュースです…警察と消防に入った連絡によりますと…』と伝えたあと、恐ろしい事件が発生しましたと伝えた。

ドナ姐《ねえ》はんは、ニュース速報を流したあとレコーダーの停止ボタンを押した。

ニュースを聞いた私は、おたついた声でドナ姐《ねえ》はんに言うた。

「ドナ姐《ねえ》はん。」
「よーくん、さっきのニュースを聞いたよね!!」
「たしか…北条地区の中心部にある暴力団事務所で、組長が若い男に殺された…」

ドナ姐《ねえ》はんは、ソワソワした表情で私に言うた。

「組長を殺した男の目星はついてるわよ。」
「もしかして…」
「さっきのニュースを聞いたでしょ!!」
「ああ…尾儀原《おぎわら》…って言ってた…」
「ケーサツが健太くんに対して逮捕状を発行したのよ!!」
「まさか…」
「健太くんに殺された組長は、田嶋組《たじま》の弟で溝端屋のダンナの用心棒《ケツモチ》を引き受けていたのよ!!」

ドナ姐《ねえ》はんからことの次第を聞いた私は、おどろいた声で『溝端屋のダンナの用心棒《ケツモチ》を引き受けていた男…』と言うた。

ドナ姐《ねえ》はんは、不安げな声で私に言うた。

「よーくん、なにか思いあたるフシはある?」

なにか思いあたるフシはある…って…

ああ!!

思い出した!!

多度津の桃陵公園《とうりょうこうえん》で…

溝端屋のダンナが…

健太からボコボコにいて回されていたのを見た…

たぶん…

それが絡《から》んでるかもしれない…

そんな中で、ドナ姐《ねえ》はんは、私にゆかさんの居場所がわかったことを伝えた。

「それともう一つニュース速報があるのよ!!よーくんが探し求めていたゆかさんの居場所が分かったわよ!!」
「ゆかさんが見つかったのですか!?」
「たしか、2〜3日前に下関にいる友人宅にいたと聞いた!!」
「下関。」
「ゆかさん、明日の夕方に出航する関釜《かんぷ》フェリーに乗船《のる》といよった。」
「…ということは…ゆかさんは韓国へ出国する予定…」
「…という事よ。」

ドナ姐《ねえ》はんからことの次第を聞いた私は『今から下関へ向かう!!』と言うた。

ドナ姐《ねえ》はんは、私に『途中の別府まで一緒に行きましょう。』と言うた。

(ボーッ、ボーッ、ボーッ…)

時は、夜8時過ぎであった。

私とドナ姐《ねえ》はんは、八幡浜港から別府国際観光港行きの宇和島運輸フェリーに乗って旅に出た。

別府国際観光港にフェリーが到着したのは、深夜11時前だった。

この日は、港の近くにあるホテルで一泊した。

6月25日の朝8時頃であった。

私は、JR別府駅から博多行きの特急ソニックに乗って小倉駅へ向かった。

ドナ姐《ねえ》はんは、お見送りを終えたあとJR久大本線の列車に乗って日田へ向かった。

ゆかさんが乗船《のる》予定の関釜《かんぷ》フェリーが出航する時間は夕方6時である。

夕方5時の締め切りまでにゆかさんを見つけないと…

急げ…

急ぐのだ…
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