乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【涙(なだ)そうそう】

時は、5月11日の午後1時頃であった。

ところ変わって、沖縄本島《おきなわほんとう》の西海岸にある恩納村《おんなそん》にあるナビービーチ(海浜公園)にて…

ビーチの名前は、恩納村《おんなそん》出身の女流歌人・恩納《おんな》ナビーさんにちなんで命名された。

主に、地元の住民のみなさまが多く利用しているビーチである。

11日と12日は、予定がないので心身を休ませることにした。

A班のメンバーたちは、大きめのパラソルの下にパイプベッドを設置した空間でおだやかな時間を過ごした。

えんじ色のサーフパンツ姿の私は、パイプベッドに腰かけた状態で海を見つめながら考え事をしていた。

私は、生まれてから今までの間に世界中のいろんな海を見た…

アメリカ西海岸のサンタモニカビーチ・フロリダタンパシティのマリーナ・北欧ベルゲンのフロイエン山の山頂からみたフィヨルド・南イタリーのエーゲ海の風景・ポルトの港・インド洋・ケアンズのビーチ・大阪湾・周防灘・関門海峡・玄界灘・対馬海峡・八代有明海《しらぬいのうみ》・水俣湾…

そして、母子保護施設《しせつ》のテラスから見えた来島海峡などの瀬戸内海の風景…

いろんな海を見て育った。

私は、生まれた時分からセヴァスチャンじいさんが訣《き》めた人生設計《ライフプラン》どおりの人生を送った。

1976年4月1日から1994年9月までの間、9000兆倍のガマンを強いられたより過酷な環境のもとで子ども時代を過ごした。

小学校・中学校・高校はアメリカ合衆国の学校の卒業だけど、全部レポート提出だけで取得した。

マサチューセッツ工科大学は、レポート提出とリモートゼミだけで卒業証書を取得した。

アメリカ国防総合大学と超有名医大ヘ通うことと仕事に必要な資格9999億9999万9999種類・大学院の修士号・博士号合計9999億9999万9999号を取得することとイワマツを作るプロジェクトを始めるための準備を進めることが最優先であったから、同い年の子たちと同じ時間を過ごすことができなかった…

体育祭・文化祭・修学旅行・夏休み冬休み春休み・プロム…

楽しい時間なんか、全くなかった…

恋…

恋もできんかった。

セヴァスチャンじいさんが『なまけぐせが出るから絶対にアカン…』と言うて恋愛厳禁にした…

せやけん、一生涯独身《いっしょうひとりみ》で通すつもりでいる。

7年前(1995年)に、ゆりこが私に対して『ゆりこと健太くんの結婚を素直に喜べないよーくんなんか大キライ!!』と言うて私にリンゴをぶつけた事件が原因で、私は結婚自体が苦痛になった。

吹揚神社《ふきあけじんじゃ》で発生した事件の時、健太は私を小太郎と同じ英才だからと言うて私をボロクソに痛めつけた…

そして、きのう(10日)にいよてつ会館の中華料理店で健太が私を虫けら呼ばわりした…

健太ひとりのせいで、私は母子保護施設《しせつ》に帰らないと訣意《けつい》した。

今朝のニュースで、晋也《しんや》が砥部町のラブボでヤクザの男に殺されたと聞いた。

健太も、ゆうべの一件が原因で三浦工業《みうら》におれんなる(居場所をなくす)うえに、市外《よそ》で暮らすこともできなくなるだろう…

健太のふたりの義兄《あに》と孫市はムコヨウシでよその家に移ったが、数日後に交通事故で亡くなった…

小太郎はおじいやんにカンドーされたあと、名古屋栄の繁華街でヤクザと乱闘騒ぎを起こした末にコンクリ詰めにされて亡くなった…

…と聞いた。

小太郎は、どこのどこまでドアホなんだか…

(ザザーン…)

おだやかな波の音がビーチに聞こえている。

パラソルの下に設置されているパイプベッドの横に置かれているテーブルには、CDウォークマンとCDのケースが置かれていた。

私は、CDウォークマンで歌を聴きながら海をながめていた。

イヤホンから森山良子さんの全曲集のCDに収録されている歌が流れていた。

『この広い野原いっぱい』『今日の日はさよなら』…のフォークソングから『さとうきび畑』まで…

その中で、森山良子さんが作詞した歌で夏川りみさんが歌っていた『涙(なだ)そうそう』を一曲リピートにセットして聴いていた。

(ザザーン…)

それから20分後であった。

私は、歌を聴きながら昼寝をしていた。

この時、黒のアンダーアーマーのロゴ入りのフィットネスビキニ(ブラトップとビキニショーツ)姿のミンジュンさんが私のもとにやって来た。

ミンジュンさんは、せつない表情で眠っている私の表情を見つめた。

その後、私の身体にブランケットをゆっくりとかけた。

ミンジュンさんは、テーブルの上に置かれているCDケースに記載されている曲順を見てからCDウォークマンの演奏ボタンを止めた。

眠っている私の両目から涙があふれていた。

ミンジュンさんは、眠っている私にやさしい声で『涙(なだ)そうそう』を歌った。

(ザザーン…)

おだやかな波の音がビーチに聞こえていた。
< 34 / 200 >

この作品をシェア

pagetop