シークレットベビー~初めまして、愛している。記憶喪失からはじまる二度目の結婚生活は三人で~
貴方は誰?
私達は連絡先を交換。
慧斗さんは口許を綻ばせながら帰って行った。

*********

私は背中を押してくれた事務長に一言お礼を言おうと事務長室を訊ねた。
事務長はデスクチェアに腰を据え、デスクトップのパソコンで弄っていた。

高木院長はオフィスワークが苦手でその分事務長がしっかりとフォローしていた。
病院の医療行為に関しては全くノータッチだけど、病院の事務作業全般は全て彼の管轄である責任となっている。
高木院長と彼の二本の屋台骨で病院は成り立ち、コロナ禍における経営難を乗り越えた。


「あ、君か」

「事務長、ありがとう御座いました」

「桑原さんと話は付いたようだな」

「はい、彼は父親として理沙に養育費を払いたいと申し出てくれました」

「それはいい事だ。今時の子供はお金がかかるから。遠慮せずに貰うといいさ」

「事務長…ハンバーグの店の件ですが」
「何処に決まった?」

「『びっくりトンキー』で…」

「えっ?そんな店、俺チョイスしたかな?」

「理沙は『びっくりトンキー』のハンバーグは大好きなんです」

「そっか。理沙ちゃんのリクエストなら仕方がないな」

事務長は軽く笑い、デスクの端に置いていたコーヒーを啜った。

「でも、桑原さんとはより戻さないのか?」

「慧斗さんとはよりは戻せません」

「じゃ俺が君に交際を申し込んでいいの?」

「えっ?」


「今一番君を理解しているのは俺だと思う」

事務長は自信満々に言い放つ。

「私は…」

私の心の中には慧斗さんが居た。

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