シークレットベビー~初めまして、愛している。記憶喪失からはじまる二度目の結婚生活は三人で~
「そうですね」

設楽先生は落ち着いた様子でコーヒーを口に含んだ。

彼の上着の襟の弁護士バッチがキラリと光った。

「まぁ―俺としては若干疑問は残るのですが…」
「えっ?」
「示談は成立していますし、蒸し返すような事は言わないでおきますね」

「あの…設楽先生の疑問とは?」

「桑原さんは貴方の救護に気を取られていたので、彼の車の助手席に女性が同乗していたとは証言しなかったのですが、彼の秘書の伊澤さんは女性が同乗していたと証言しました。しかし、彼は一人で車に乗っていて、スマートフォンの着信音が鳴り、それに気を取られ、貴方を轢いてしまった。と供述しました・・・」

「伊澤さんか彼のどちらかが嘘を言っている。そう言うんですか?」

「でも・・・警察は彼の供述を不思議と採用した。彼は素直に取り調べを受け、反省の意を示していました。彼の真摯な態度で見て、嘘は言っていないと警察も感じたんでしょう。貴方に何度も弁護士を通じて謝罪もしています。慰謝料だってかなり多めにとれたと思います。でも、伊澤さんが嘘の証言をしたと言い難い」


「・・・」
彼の言葉は尤もだった。慧斗さんも伊澤さんを心から信頼していたから。


「過ぎた話ですし。お終いにしてもいいと思いますが…」


彼はコーヒーを飲み干してスマートフォンを見た。

「本当にありがとう御座いました」

「いえ、これが俺の仕事ですから」


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