深海
「僕がいるのに、どうして自分を傷つけるの?」

「あなたがいないからじゃない!」

焦点の合わない目で虚空を見つめ、彼の姿を捜す。

相変わらず重力は感じない、耳に聞こえるのは荒い自分の呼吸だけ。

私は床に散らばる、赤く濡れた鏡の破片を掴み、握り締める。

握った指の隙間から、赤い液体が止めどなく流れてくる。

…このながれるえきたいはなんだろう。

…にぎるとゆびのあいだからたくさんながれてくるよ?


『つかまえた。』


その聞き慣れない声に一瞬我に返った。

今の声は誰だろう、彼の声ではない。

「つかまえた。」

この声は彼の声だ。でも姿が見えない。

床に散らばる鏡の破片に目をやると…自分の姿だった物が映っていた。

その鏡の中には、私だった物の顔がニヤリと笑っている。


『つかまえた。』


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