一期一会。−2−
『…クレープ、ありがとう。

 服も、ありがとう』

照れくさくて、少し視線をずらしながら
お礼を言った。
 
申し訳無さのほうが大きかったけど、まずはお礼しなくちゃね。

すると、時雨は何を思ったのか、私を隣から抱き寄せてきた。

肩に手を置かれ、グッと時雨の方へ寄せられ、目を見開く。

ふわりと、香水の香りが鼻をくすぐる。

耳元で、時雨の囁き声が聞こえた。

「もっと、甘えていいよ。

 彩羽ちゃんなら…、いくらでも
 甘やかしてあげる」

優しくて、ふわっとした声が耳の内に、
こだまする。

時雨は、綺麗で、それでいて切なく優しい笑顔を浮かべていた。

怖さはなくて、ただ、胸に迫るものがあった。

…なんて、穏やかで柔らかな表情。

出会ったときの荒々しさや棘はなく、苦しそうな顔は、もう、すっかりなくなっていた。

時雨は、確かに変わったのだ。

出会わなければ、ぶつからなければ、
きっと、分からなかったこと。



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