隣の眼

隣人

海風が気持ち港町に俺は左遷された。
新人が会社に損害を出して注意した。損害自体は皆のフォローで先方も理解してくれ大事にはならなかったが、この新人が厄介だった。
俺とは2歳差だが、俺は大卒で8年目向こうは高卒でバイトしかしたことなく初の職種にも関わらず聞く耳を持っておらず指導がまともに出るわけもなく、俺が責任を取る羽目になった。
同僚からは、同情され上司からは謝罪された。
何でもコネ入社らしく。好き放題なのだとか。


まぁ、俺も最初こそ落ち込みはしたが出世に興味はないし何より満員電車に乗らずにすむのは魅力的だった。
海鮮も好きだし、港町だから休みの日は釣りにでも精を出そう。
会社から程近い木造のぼろアパートで荷ほどきをしながら1人そんなことを考えていた。


ギィー


不意に玄関の方から聞こえ誰かが廊下を歩いていると思った。荷物を運ぶときかなり軋んでいたから。
俺は慌てて包みを取り挨拶に向かった。明日から出勤の為いつ会えるかわからない。挨拶は早いに越したことがないと思い玄関を開けた。

音がして対して時間は経っていないがそこには誰もいなかった。

「出掛けたのか?」

1人呟く。

また後でもいいか。四部屋ある中の一階の道に面した方が大家さん。60は過ぎているだろうか?笑うと前歯が一本抜けてる陽気なじいさんが住んでる。
その横は空き家で、大家さんの上が俺の部屋。俺の横に1人住んでる人がいると大家から聞いているがどんな人か詳しくは聞いていない。
そのうち、話し声がしてからでいいかと挨拶は後回しになってしまった。




俺の仕事は基本土日祝日は休み。それでも隣人には会えなかった。
大家もここの他にペンションなど経営しているらしく一向に話が出来なかった。



シャー、シャー。

夢か?

シャー、シャー、シャー。

目を擦り時計を見ると、深夜3時。
シャー、シャー、シャー、シャーとリズミカルに隣から音がする。
眠い目を覚ますと音がなくなる。

「気のせいか?」

古いアパートだから、壁が薄いのも了承してる。家賃が安いのと会社に近いからと決めたのだから。
とりあえず、目をつぶるが気になってなかなか寝付けなくなってしまった。








「大丈夫ですか?凄いくまですよ。」

隣の三熊奈央が話しかけてきた。自分の名前に熊が付くからと熊グッズでまみれた机。(若干はみ出してるが)

「このところ、深夜3時頃に毎日起こされてるんだよ。」

「佐久間さんとこペットなんて飼ってましたけ?それとも隠し子?」

大袈裟に手を口元に当てながら驚いた表情を浮かべてはいるが、目ではその話詳しくと食いついてきた。

「隣からシャー、シャー。って音がするんだよ。」

「オカルトですか?私、幽霊とか駄目なんですけど」

「俺もだよ。って好きな人って体験したことない人でしょ。オカルトでもそうじゃなくても安眠したい。毎日はきつい。」

「隣の人には言ったのか?住んでるんだろ?」

後ろから声が聞こえ振り返ると課長の伊達祐輔が立っていた。

「課長~それが会えないんです。時間帯が合わないのか。1日人の気配を感じないときもあるし。」

「とりあえず、倒れたら困るからしばらく休んで昼間寝てろ。帰っていいから。」

他のやつらにも心配されてその日は早退した。
部屋に入ると、日頃の疲れもあってかすぐに寝てしまった。







ピンポーン。

部屋の呼び鈴で目が覚めた。時計の針は6時を刺している。
一瞬、午前か午後かわからないがカーテンの閉まっていない窓から射すオレンジ色の光で夕方だとわかった。

「はい。」

越してから誰も訪ねて来ない部屋。会社の人間かと思ったが、見たことのない人で首をかしげた。

「どちら様ですか?」

「隣の佐藤亮二です。実は、魚を取りすぎて食べきれないのでどうかなぁと。大家さんから魚好きと聞いたもので。」

そういう佐藤の手には綺麗に捌かれた刺身と切り身が乗った皿。
聞くと鯛と鰈だと言われた。

「ありがとうございます。ちょっと待ってくださいね。」

素直に受けとり、渡せずにいた引っ越し蕎麦の包みを渡した。

「時間帯が合わず渡すのが遅れてしまいましたが、隣に来た佐久間翔です。」

「では、この時間に居るのは珍しいんですか?」

「実は、早退しまして……」

俺は寝不足になった原因を佐藤に話た。

しばらく考え込んだ佐藤だったが、おもむろに笑い出した。
こちらが呆気にとられていると、涙を拭きながら話し出した。

「いや~、すみませんでした。それ俺が犯人です。」

その瞬間背筋に冷たいものが流れた。




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