貴方の涙を拾うため,人生巻き戻って来ました!
「俺にリリーしかいなかったのはさ,俺がいじめられっこだったからだった」



柔らかい顔で語るのは,私達だけの幼少の記憶。

カイはその命と引き換えに,母親を亡くしていた。

事情も気持ちも分からない周囲の子供は,カイをからかって,いつしかいじめて。

カイはよく,私のお店の前でしゃがんでいた。



「俺は誰より強くて,いくらでもやり返せたけど。笑いかけてくれたのはリリーだけだった」

「だってカイ,面白くて優しかったんだもの」



でもどうして今その話をするの?



「初恋だったんだ,リリー。だから1度もリリーを忘れたりなんかしなかった。1度だけ誘うよ……俺と一緒に行かない?」



カイは微笑みながら,ばさりと花束を私に向ける。

私はようやく,それが何の花束なのかを理解した。



『大人になったら───』



優しいのね,カイ。

だけど



「私は行かないわ,カイ。ここが1番安全で,ここが1番,蘭華に近いから」



花束が,小さな花を散らしながら降ってくる。
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