貴方の涙を拾うため,人生巻き戻って来ました!
私には何も分からない。
この辺りじゃ有名な子守唄か何かだと思っていたから。
だってこれは……
「凛々彩,一体誰に教わった」
強く,強く。
縛られるよりいたく手首を握られる。
「~ッぃっ」
たい。
その言葉も出ない程。
涙が込み上げてきた。
蘭華,はなして。
だってこれは,これは。
ー蘭華に教わったのよ!!!
そう,言えたらいいのに。
これは蘭華が私のもとへ仮眠を取りに来る度,蘭華が口にしていたメロディーだった。
尋ねると,子守唄だっていって。
教えてくれて,たまに歌ってあげた。
最後のメロディーは,何故かいつも嬉しそうな顔をしていたけど。
今聞かれたのも,何か意味があるの?
「凛々彩」
ここまではっきりとした命令調は,ここの人間でない私にはそう向けられる物じゃなかった。
だけど本当にどう答えていいのかも分からない。
嘘なんて,見抜かれて終わり。
答えを欲する蘭華を誤魔化すなんて,出来るわけもない。
蘭華の母に?
亡くなったのはもうずっと前。
たまたまだろうが,逢えるはずもない。
近所で聞いた?
「凛々彩,その様子じゃ知らないようだけど。これはね,僕のために母が考えた子守唄なんだよ」
なら,近所で聞けるはずもない。
お母様が考えたのは歌詞だけで,メロディーはありきたりなんだって。
そんな苦しい言い訳も,通用しないに決まってる。
私には使えるカードがない。
蘭華が心を許して教えてくれたこの歌が,そんなに大事なものだなんて知らなかった。
でも,だからって。
こんなところで,この人の手で死ぬわけにはいかないのに……