君の花嫁 ~シリーズ番外編 恋のライバルに宣戦布告されました!?~
黙々と接客をしていたから、声をかけられるまで交代の時間に気が付かなかった。
「俺ももう交代だから脱いでいいだろう?」
うんざりした顔の伊織がバックヤードに顔を出して言う。
「伊織君がいると繁盛するんだけどな」
「あと少しだけお願いできないか?」
口々に頼まれて伊織は考える様な表情をする。
もう少し接客するのかな。そうしたら一緒に回る時間が無くなっちゃう……。
そんな気持ちが表情に表れていたのか、伊織は私の手を取った。
「悪いけど、時間は時間だろ? それに休憩時間の約束しているから」
伊織は私をそのまま引っ張るように手を引いて、「じゃ」と教室を後にした。
「い、伊織……」
「取りあえず、着替えさせて。このままでうろつきたくない」
控室に向かう途中も大注目だもんね。
控室はちょうど入れ違いに人が出て行くと、中には誰もいなかった。
「あぁ~、疲れた……」
伊織はぐったりと椅子に座り込む。
「お疲れ様。とっても似合っていたよ」
「似合いたくないよ」
「ふふ、私も一緒に写真撮りたかったな」
呟きながら自分の制服を取り出して奥の更衣室へ行こうとすると、伊織がその行く手を遮った。
「一枚だけなら……」
「え?」
「こんな格好なのは嬉しくないけど、真琴が望むなら一緒に撮ってもいいよ」
「本当!?」
絶対嫌がると思っていたから、嬉しくてパァと笑顔になる。
伊織はどこか照れくさそうだ。
スマホを取り出して一緒に撮った。結構よく撮れている。
「ありがとう、大切にする」
ふふふと笑うと、伊織は私の頭を撫でて男性用更衣室へ入って行った。
着替えが済むと、伊織の前髪が濡れていた。
「化粧、落とすために顔を洗ったからな」
そう言って、前髪をグイッと上にかきあげる。
その色っぽい仕草にドキッと胸が鳴った。
「ん? どうした?」
「なんでもない」
赤くなった顔をそっと隠した。