君の花嫁 ~シリーズ番外編 恋のライバルに宣戦布告されました!?~
数日後。
伊織とはやや気まずい状態のまま。
伊織の仕事とプライベートは別という考えはわかるが、私は感情的にそこまで切り分けることが出来ていなかった。
そんな時。
「真琴ちゃん、ちょっと掲示板の所に来て」
「え? 掲示板?」
薫と移動教室から戻ると、肇君が険しい顔つきでやってきた。
薫と顔を見あわせながら、着いて行く。
掲示板の前には人だかりができていた。
真琴が行くと、みんなチラチラと振り返りつつ場所を開けてくれる。
掲示板には何か張り出されていた。
新聞部の記事……?
「あえ……、なにこれ……」
そこに張り出されていたのは、新聞部の最新記事。
『号外!! ミスコン一位の川口日葵! 雨宮伊織さんの経営するウエディング会社でモデルデビュー!』
と見出しが書かれていた。
日葵ちゃんがモデルデビューしたのは口コミで広がっていた。それを改めて新聞部が記事にしたようだ。
しかし、載せられていた写真に目を疑った。
「どういうこと……」
「え? これ雨宮?」
そこにはウエディングドレスの日葵ちゃんとタキシードを着た伊織が並んでいる写真だった。
それはまるで、結婚写真のようだ。
サッと血の気が引く。
「普通、ここまでするか?」
肇君が呆れた様な声で呟く。
すると、新聞部がこの記事を配布しだした。
「号外でーす。どうぞー。あ、綾川先輩だ」
新聞部の男の子たちが目を輝かせて近づいてくる。
「綾川先輩! 雨宮先輩とお付き合いをしているとの噂ですが、この記事を見てお気持ちをお聞かせください。やはり三角関係なんでしょうか!?」
そう聞きながら新聞を手渡してくる。
「ちょっと、やめてよ新聞部!」
言葉に詰まっていると、薫が間に入ってくれる。しかし、新聞部はひるまない。
「雨宮先輩はただでさえわが校では注目度が高いんです。その人の恋愛沙汰なんて記事にしない方がおかしいでしょう」
「ほう……、お前はゲスイ記事を書く記者になりたいのか?」
肇君が低い声で私たちの前に立ち、新聞部にすごむ。
新聞部は焦ったようにモゴモゴ言い訳をして、去っていった。
「真琴、大丈夫? 顔真っ青だよ」
薫が支えながら顔を覗き込む。
大丈夫なんかじゃない……。なんで、二人して並んでウエディング写真撮っているの……?
私とだって、まだなのに……。
「仕事……、そう仕事でこういった写真を撮ったんだと思う」
そう呟いて、自分に言い聞かせていると後ろがざわつく声が聞こえた。
振り返ると、日葵ちゃんが取り巻きらしき人たちと楽しそうに話しながらやってくる。
「あ、この写真。もう出たんだ~」
掲示板の写真を指差しながら目を輝かせる。
「あ、綾川先輩。こんにちは」
「日葵ちゃん……、これ……」
手にしていた新聞部に渡された記事を見せると、日葵ちゃんはふふふと笑う。
「やぁだ、誤解しないで下さい。仕事ですよ、仕事」
「そう……だよね……」
「なのに、みんなにお似合だって言われて困っちゃって~。私としては、仕事とはいえこうした写真が撮れてとても幸せな時間でしたけど。伊織先輩の花嫁になった気分で」
ニコッと私に微笑んで、日葵ちゃんは去っていった。
「花嫁……」
伊織の花嫁は……。
「だれ……」
足元が揺れる。
目の前が真っ暗になった。