君の花嫁 ~シリーズ番外編 恋のライバルに宣戦布告されました!?~
伊織は大きくため息をついた。
「君は容姿にも恵まれているし、君を起用したことでうちの会社の売り上げや注目度もグンとあがった」
「ですよね! それならなぜ!? もの凄く貢献しているじゃないですか」
そう言いながら、日葵ちゃんは私をキッと睨む。
「私が真琴先輩にライバル宣言したからですか!? 私が伊織先輩に近づくのが面白くなくて、伊織先輩に私をクビにするよう言ったんですか!?」
「私は何も……」
「真琴は何も言っていない。ちゃんと、仕事だからと理解しようとしてくれていた」
伊織はそう言うが、日葵ちゃんは首を横に振る。
「庇わなくていいです! 真琴先輩が私に嫉妬してこういうことさせたんでしょう!? 私と伊織先輩の距離が近づくことが不安で怖いから!」
日葵ちゃんは大きな目に涙を浮かべ、私を睨み続ける。
すると、伊織が低い声で言った。
「川口さん、君と契約を解除したのはそういう所だよ」
「え?」
伊織は凛とした社長の表情になって、日葵ちゃんを見据える。
「君は仕事とプライベートの区別がついていない」
「区別って……、どういうことですか」
流れる涙を拭って、日葵ちゃんは伊織に問いかけた。
「昨日の新聞部に掲載された写真。あの写真は、試し撮りだったはずだ。うちの会社のホームページはもちろん、どの雑誌媒体にも出ることはない。それがなぜ、高校の新聞部に載るんだ?」
「そ、それは……」
伊織の低い声に日葵ちゃんはさっきまでの勢いを失っていく。
伊織が言いたいこと、そして何よりも怒っていることに気が付いたようだ。
「君は無断で写真を掲載したんだ」
「無断なんてことは……」
日葵ちゃんが言いかけたのを、片手を上げて制する。
「カメラマンに聞いたよ。憧れの雨宮社長との写真なので、記念に欲しいと言って無理にもらったと……。俺と写真を撮った時点で、こういうことをしようと決めていたんじゃないのか?」
「そんなことありません。本当に記念のつもりで……」
「記念に新聞部に写真を掲載させるのか」
静かだが、有無を言わさないような強い言い方の伊織に、日葵ちゃんは言葉を詰まらせる。
「たかが、学校新聞じゃないですか」
日葵ちゃんが呟くと、伊織は苦笑した。
「たかが?」
「そうです。高校生がやっている学校新聞ですよ?」
そう言う日葵ちゃんに、一緒にテーブルに居た薫や肇君が顔を見合わせ、呆れたように首を振っていた。
正直、私も日葵ちゃんと同じ感想を持った。
写真を勝手に掲載したのは良くなかったけど、たかが高校の新聞部だ。
それがなぜそこまで怒るのだろう。
すると、伊織は「ここが……」と机を軽くコンッと叩いた。
「ここがどこだかわかっているのか。鳳凰学園という所がどういう所かわかっていっているのか?」
「え……」
伊織は怒りをにじませてため息をつく。
「君が来ていたドレスは新作で、未発表物だ。それを公式に出す前に掲載した。高校の新聞部だから問題ない? 大ありだ。この学園は多くの企業の子息令嬢が通っている。同業者だって存在するんだ」
そう言われて、日葵ちゃんはハッと目を丸くする。
伊織の言いたかったことに気が付いたようだ。
「俺が作った会社は出来たばかりで弱小なんだ。世間では雨宮の息子が作ったと騒がれても、実際はまだ業界内では力が弱い。そこに、未発表の新作ドレスが無断で掲載されたらどうなるかわかるよな」
そう言われて、日葵ちゃんは青ざめた。
私も、伊織が言いたいことがよくわかった。
未発表のドレスがこうして掲載されたことで、校内にいる子息令嬢から同業者に情報が行ってしまう恐れがあるのだ。
昨日、新聞部に怒ったのは、私のことだけでなくそういった意図もあったのだろう。