君の花嫁 ~シリーズ番外編 恋のライバルに宣戦布告されました!?~
「君は悪気なくやったのかもしれない。真琴に対してけん制する意味でやったのだろう。でも、君はうちに採用された時点でプロだ。プロとしてプライベートの感情と仕事を混合させるべきではなかった」
「私……、そんなつもりじゃ……」
事の重大さに気が付いた日葵ちゃんは、それ以上もう言葉が出ない様子だった。
「君との契約解除は風間さんと話し合った結果だ。受け止めてほしい」
「……」
「それと、もうひとつ」
日葵ちゃんが立ち去る前に、伊織が引き止めて言った。
「真琴のことをライバル視しているようだけど、俺は真琴以外は興味がない。君が真琴をどう思おうが勝手だが、そもそも同じ土俵にすら上がっていないんだよ」
穏やかな口調だが、その言葉は辛辣だ。
私もここまで怒っている伊織を初めて見る。
「それ以上、真琴を傷つけたら俺が容赦しない。覚えておいて」
最後に軽く微笑むと、日葵ちゃんは俯いたままその場を走り去っていった。
完全に去った姿を見てから、伊織はふうと息を吐いて椅子に座りなおした。
「やるじゃん、雨宮」
「かっこよかったぜ~、伊織」
幼馴染みの二人はニヤニヤしながら伊織の肩を軽く叩く。
「からかうな」
うっとうしそうな、どこか照れくさそうにその手を払う。
そして、私の顔をチラッと見た。
「そういうことだから、もう真琴が気に病むことなんてないよ」
「でも……」
少し、日葵ちゃんが可哀想に思えてしまった。
そんな私に、薫が首を振る。
「真琴、気にすることなんて何もないよ。これはビジネスだし、ここがどういう所なのか気が付かなかったあの子が悪いの。自分の感情だけで暴走した結果、雨宮の会社に損害を与えようとした。だから、契約解除なの」
「そうそう、真琴ちゃんの件はおまけと考えて」
「おまけって……」
肇君の言い方に苦笑する。
「好きだからこそ、やっていいことと悪いことを判別しなきゃねぇ~」
「ねぇ~」
と、薫と肇君は顔を見合わせていう。
確かに、好きだという気持ちや私に勝ちたいという気持ちだけでやっていいことではなかった。
伊織は私の頭を優しくポンッと触る。
「これは会社の方針で決めたことだから。あの子に同情の余地はない」
「うん」
伊織の言葉に素直に頷く。
「しかし、雨宮もカッコいいこと言うねぇ~。俺は真琴以外に興味はない。一度でいいから言われてみたい台詞だわ」
薫がふふふと笑いながら言うと、伊織はバツが悪そうな顔をした。
「止めろって。真琴、行こう」
伊織は二人のからかいから逃げるように、私の手を掴んで立ち上がった。
二人はニヤニヤしながら手を振っていた。