干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 車は美琴のマンションの前で停車した。

「本当にありがとうございました」

 お礼を言って降りようとする美琴の肩に、もう一度雅也が手を伸ばす。


「次に会う時はライバル同士だね。胸を張ってプレゼンしてるとこ、俺に見せてよね」

「はい! 負けませんから!」

 美琴はグーの手を顔の前に出し、笑顔で頷く。

「これは強敵だ」

 雅也はあははと笑いながら、自分もグーの手を美琴の手にコツンとぶつけた。


 大きく手を振る美琴の姿をバックミラーで見ながら、雅也は一人ふっと苦笑いを浮かべた。

「強引にキスでもすれば良かったかな……。あーあ。肝心なところで、俺も行動できない奴だった」

 雅也は楽しそうに笑いながら、軽快にアクセルを踏んだ。



 美琴は雅也を見送った後、タンタンと階段を駆け上がり勢いよく部屋に入る。

 そのまま鞄を投げ出すとベッドに仰向けに倒れ込んだ。


「ちょっと救われた……」


 そしてスマートフォンをタップして、あの渓谷の写真を表示させた。

「思うように真っすぐ進もう。脅しになんて屈してらんないよね」

 美琴は腕を伸ばし、あの鮮やかなコバルトブルーの滝つぼにガッツポーズを向けた。
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