干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「褒めてます」

 副社長の低い声が耳元で聞こえたと思った瞬間、美琴の腕は副社長の方にぐっと引かれた。

 そしてそのまま力強く抱きしめられる。

 美琴は一瞬何が起こったのかわからず呆然とし、そして次第に全身がドキドキと激しく脈打ちだした。


「ふ、ふ、副社長……」

 美琴は止めていた息をやっとのことで吸い、なんとか言葉をつなぐ。

 副社長の腕は、美琴の言葉をも包みこむかの様にさらに力がこもった。


「僕はどうも、友野さんといると我慢ができなくなるみたいです。10秒だけ……このままでいさせて」

 耳元でささやかれた、普段の副社長とは全く違う少年のような甘えた声。

 美琴は自分がこのまま、溶けてしまうんじゃないかと思っていた。

 そして小さく頭だけを動かして頷き、そっと目を閉じる。


 自分の身体を伝って聞こえる鼓動の音、肌に伝わる体温、両手に触れるスーツの感触。


 ――どこかで知っている安心する香り……。


 しばらくして副社長は美琴の両腕をそっと支えると、またゆっくりと目の前に立たせた。

「じゃあ、行きましょうか」

「……はい」

 美琴は胸をぎゅっと掴みながら、副社長の後について部屋を出る。

 あの10秒がずっとずっと続けばいいのに、そう思いながら。
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