干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「わかりました」

 俊介は頭を下げると、足早に社長室を後にした。


「まったく、お父さんも甘いなぁ」

 俊介がエレベーターに向かって歩いていると、後ろから朔人の声が聞こえてくる。

「でも驚きましたよ。まさか兄さんの彼女が、トータルの副社長とも親密だったなんて。“干物ちゃん”はモテるんですねぇ」

 にやにやしながら話す朔人の顔を、俊介はばっと振り返る。

「そうそう! 後ろ姿はまるで恋人同士みたいだった、って聞きましたよ」

「お前、やっぱり……!」

 朔人の言葉に俊介は目を見開き、一歩身を乗り出す。


 ――やはり、一斉メールを仕組んだのは朔人か。


「おっと。この前みたいに掴みかからないでくださいよ」

 朔人は俊介の様子を察し、両手を上げて身を(ひるがえ)した。

 そしてくるっと隣に立つと、俊介の肩に手を置き耳元に顔を近づける。


「引き抜きの首謀者なんて、本当に別にいるんですかね? これじゃあプロジェクトだけじゃなくて、兄さんの恋もうまくいかないかも知れませんねぇ。じゃ、おやすみなさい」

 朔人はにっこりほほ笑むと、そのまま社長室へと戻って行った。

「くそっ」

 俊介は廊下に向かって小さな声を上げた。
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