干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「トータルは、うちを弱体化させてからの、吸収合併を狙っている……って事ですね」

 吉田は顔を青ざめさせ、部長は額に手を当てている。

 部屋は急に緊張感に包まれ、三人はしばらく沈黙した。


「吉田さん。他には何か覚えている話はありませんか? 些細な事でも構いません」

 吉田は目を閉じて、懸命に思い出そうとしている様子だ。

「あ……僕が『そんなの信じられません』って言ったら、先輩がムキになって『もう椅子が約束されている人もいる』って言ってました」


 吉田が部屋を出た後、俊介は腕を組みしばし目を閉じて考え込んでいた。

 『椅子が用意されている』という発言は、吸収合併の功労者に対してだろう。

 そしてそれはおそらく専務の事を指すが、結局は憶測にすぎず、決定的な証拠ではない。


 ――しかし……。


「トータルの狙いが吸収合併なら、事態はより深刻です。多少証拠が弱くても上にあげた方が良い」

 俊介の厳しい声に部長が頷いた。

「部長の所には、もう専務側からの情報は入っていないんですよね?」

 俊介は念を押すように、部長の顔を見た。

「はい。専務は俺が裏切ったと思ってて、一切連絡してこないですよ。まぁ、事実そうなんですけどね」

 頭をかく部長の様子を見ながら、俊介は再び目を閉じる。


 ――覚悟を決めるしかないか……。
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