干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 俊介は、差し出された右手をじっと見つめる。


 ――あの時と一緒だ。美琴が俺に、手を差し伸べたあの時と……。


「美琴……ありがとう……」

 にっこりと笑う美琴の顔を見つめながら、俊介はその右手をぎゅっと握った。


「そうだ。これを渡しておきます」

 しばらくして俊介は、握った美琴の手のひらを開くと、ポケットから取り出した鍵を一つそっと置く。

「これは?」

 美琴は、その小さな鍵を見つめた。

「ここの入り口の鍵です。美琴に持っていて欲しいんです。もう僕は、一人でここに来ることはない。来る時は美琴と一緒だから」

 美琴は、俊介を見上げると大きく頷いた。

「お守りにします」

「はい。お守りにしてください」

 二人は顔を見合わせると、肩を揺らして笑い合った。


 ――大丈夫。私は副社長を信じてる。


 美琴は自分に言い聞かせるように、心の中でつぶやく。


「副社長、くれぐれも無理はしないでくださいね」

「美琴こそ。突っ走り過ぎないように! 僕が側で見ていないと不安だな」

 俊介は腰に手を当てて、首を振りながら美琴を見る。

「もう!」

 美琴が俊介にトンっと肩をぶつけると、俊介はそのまま美琴の肩を抱いた。


「展示会は絶対に成功させましょう。緑化事業部が、飛躍的に成長する仕事になる」

「はい。見に来てくださいね」

「必ず、見に行きます」

 美琴の手元では、屋上の鍵がキラキラと光を反射するように揺れていた。
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