干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「なぁ、俊介。昨日ってどこ行ってたの? 俺何も聞かされてなくて、この部屋で一人ぼっちだったんだけど」

 呑気に両腕を上げてあくびをしながら、健太が俊介の顔を覗き込んだ。

「ちょっと社長に頼まれて出てた……。連絡入れなくて悪かったな……」

「ほんとだよ。『秘書なのに把握できてないってどういう事?』って、人事部長にすっげー怒られたんだから」

 健太はそう言いながら、あははと笑い声を立てる。

 そして表情を曇らせて下を向く俊介の様子に気がつき、はたと止まった。


「何かあったのか?」

「いや……」

 その時、健太のデスクの内線が大きな音を立てて鳴り響いた。


「はい……。わかりました。すぐに伺います」

 俊介は嫌な予感がして、健太の電話の行方をじっと見つめる。

「なんか、社長が俺の事、呼び出してるんだけど……。お役御免(やくごめん)ってことはないよね?」

 健太の言葉を聞きながら、俊介は額に手を当てて再びうつむいた。


 ――社長は健太に話をして、俺を説得させるつもりだ。美琴の耳に入るのも、時間の問題かも知れない……。


「くそっ」

 健太が部屋を出て行った後、俊介はデスクを力いっぱい殴りつける。

 鷺沼造園という強大な相手を前に、何もできない自分の不甲斐なさを嘆くように。
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