干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

ひとりひとりの想い

「ぼ、僕もそろそろ、温室に行ってきます」

 滝山が部長に声をかけ立ち上がろうとした時、フロアの扉が勢いよく開かれた。

 息を切らしながら飛び込んできた俊介の姿に、一瞬滝山と部長は顔を見合わせる。


「友野さんは? 友野さんはどこですか?」

 つかつかと部長のデスクの前に来る俊介を見ながら、部長はゆっくりと立ち上がった。

 俊介の切羽詰まった様子に、滝山が戸惑いながら口を開く。

「と、友野さんなら、壁面装飾のメンテナンスをしてから温室に行くって、さっき出て行きましたけど……」

 俊介は滝山の言葉を聞くと、すぐに身をひるがえそうとする。

 その時、咄嗟に部長が俊介の腕を掴んだ。


「部長……?」

 俊介は首を傾げながら、部長を振り返る。

「副社長。あなたの今の状況は、何となく噂で聞いています。当然、干物の耳にも入ってる」

「だから、話をしに……」

 部長は掴んだ腕を離すと、俊介に向き直った。


「干物はただの女の子です。どこぞの大企業のお嬢様とは違う。一人で抱えるには話が大きすぎるんですよ」

「どういう意味ですか……?」

 俊介は部長の意図を推し測るように、静かに声を出した。

「副社長だってわかってるでしょう。今は展示会前の大事な時期です。この仕事にミスは許されない」
< 349 / 435 >

この作品をシェア

pagetop