干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 落ち着きを取り戻した俊介と美琴は、お互いの手を握ったまま屋上を後にした。

「今、美琴は展示会の事だけに集中してください。その他の事は、僕が考えます」

 俊介はそう言いながら、美琴の頬に優しく触れる。

「でも……」

 美琴は不安をぬぐえない顔で俊介を見上げた。

「少しだけ、考えていることがあります。だから美琴は心配しないで……」


「……はい」

 しばらくしてやっと返事をした美琴に、俊介は優しくキスをする。

 そしてそっと、美琴の肩を押してエレベーターに乗せた。

 エレベーターの扉が閉まる直前に見えた美琴の顔は、不安を無理やり押し込めた表情だった。


 俊介は美琴を見送った後、力が抜けたようにその場にしゃがみ込み、頭に手をやる。

 美琴に、別れを言い出させるまで追い詰めてしまった自分に、腹が立ってたまらなかった。


 ――この状況を変えるために出来ること……。


 俊介は、まだうまく考えがまとまっていないその方法を胸にしまい、副社長室に戻って行った。


「あれ? 俊介遅かったな。由紀乃さんはとっくに上機嫌で帰られたって、社長室から連絡あったのに」

 扉を開けるなり声を出す健太に、俊介は首を傾げる。
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