干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「一旦、干物の様子を見てからフロアに戻るか」

 部長が滝山にそう言いながら廊下を歩いていると、医務室から誰かが出て行く姿が見えた。

 明らかにこの会社の人間ではないその華やかな女性の後ろ姿に、部長は滝山と顔を見合わせる。


「あ、あれってもしかして……鷺沼の?!」

 滝山が顔を青ざめさせている。

「な、なんで友野さんの所に?!」

 その言葉を最後まで聞かずに、部長は駆け出し乱暴に医務室の扉を開けた。


「干物、開けるぞ!」

 部長がカーテンを開けると、ベッドの上で凍り付いたように佇んでいる美琴の姿があった。

「お前、今……」

 美琴は部長の大きな声にびくっと肩を揺らすと、突然顔をくしゃくしゃにして下を向く。


「ごめんなさい……。私、ちょっと、出てきます……」

 美琴は震える声でそれだけ小さく言うと、扉を開け放って走って出て行った。

「と、友野さん!」

 外で待っていた滝山が、手を伸ばして美琴を呼び止める。

 それでも足をとめない美琴を追いかけようとした時、部長が滝山の肩を押さえ走り出した。


「部長……?」

 滝山は、美琴と部長の背中を呆然と見送った。
< 387 / 435 >

この作品をシェア

pagetop