干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「おい! 干物、待て……」

 部長が後ろで叫けびながら追いかけてくる。

「来ないで! 一人にしてください……」

 美琴は振り返ると涙声でそう言い残し、エレベーターに飛び乗った。

 すぐに屋上の階を押すと、閉じるボタンをぐっと押す。

 入り口の扉が閉まった途端、美琴はしゃがみ込み膝に顔をうずめた。


 渓谷に行き植物が手配できたことで、展示会の仕事も、俊介の事も取り戻せたと思った。

 自分たちが鷺沼造園を頼ることなく仕事ができれば、俊介の結婚話もなかったことにできるんじゃないか、そんな期待があった。

 でも、俊介を取り巻く状況は何も変えられなかった。


 ――助けられなかった。もう、副社長には会えない……。同じ会社にいても、会っちゃいけないんだ……。


 エレベーターは屋上の階に着き、美琴は俊介に手渡された鍵を握りしめながら扉を開ける。

 俊介と一緒にここに来た日と同じように、屋上には強い風が吹いていた。


 美琴はフェンスの手すりにすがりつくと、「わぁ」と声を出して泣いた。


 ――恋する事がこんなにも苦しいなんて。初めて知った……。


 美琴の(まぶた)の裏には、俊介の笑った顔だけが浮かんでいた。
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