干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
 目線の先フェンスの所には、声を上げて泣きじゃくる美琴の姿と、隣で慰めるように美琴の頭を撫でる部長の姿があった。

 俊介はしばらくその様子を、身動きできずにただ眺め続ける。

 そして下を向くと静かに扉を閉じた。


 ――今の俺は、美琴の隣に立てない……。余計に苦しめるだけだ……。


 俊介は身をひるがえし、降りたばかりのエレベーターに乗り込むと、壁にもたれて腕で目頭を覆う。

 エレベーターが下降し出した時、俊介はおもむろにスマートフォンを取り出した。


 もう一年以上もほったらかしにしているSNS。

 最後に更新した記事が、写真と共に表示される。

 そのコバルトブルーが彩る写真を見つめると、静かに顔を上げた。


 俊介の脳裏には、あの日の川のせせらぎや野鳥のさえずりと共に、自分の腕の中で目をつぶる愛らしい顔があった。

 ふと目線を下げ、もう痛くはない手首にそっと触れる。


 ――きっとあの時から始まってたんだ。ゆっくりと俺たちは進み出してた。


 俊介は、もう一度スマートフォンを取り出すと、連絡先を表示させた。

 一瞬躊躇(ためら)ったのち、短く息を吐いて通話ボタンをタップする。


「もしもし?」

 呼び出し音が数回鳴った所で声が聞こえる。

「……ちょっと話があるんだ」

 俊介はいつもより低く緊張した声を出した。
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