干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「そういや、あのお嬢さんになんて言われたんだ?」

 ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻した美琴を見ながら、部長が遠慮がちに聞いた。

「副社長と正式に婚約するって。だからもう二度と、個人的に会わないで欲しいって言われました」

 美琴はフェンスに手を置き下を向く。

「そうか。面と向かって言われたらキツイよな。まぁ俺はそういう恋愛のごたごたには疎いんだけどな……」

 部長はまた頭をかきながら美琴を振り返った。


「でもな。倒れたお前を抱えて、医務室に運んだのは副社長だぞ」

「え……」

 美琴は部長を見上げる。

「お前の名前を呼んで、手を握りながら付き添ってたのが、まぎれもない副社長の本心だろ?」


 美琴は記憶が定かでない、あの瞬間を思い出していた。


 ――あのふわふわとした夢の中みたいな感覚。とても心地いい、あの低い声はやっぱり副社長だったんだ……。


「まぁでも。今は何も考えずに、お前は自分のやれることに精一杯取り組め。それが植物を提供してくれた、土産物屋の人達への礼にもなるだろうしな」

 部長はそう言いながら、美琴の頭を力いっぱいポンポンと叩く。

 美琴は乾いたはずの瞳を再び潤ませながら、こくんと頷いた。
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