干物のミカタ　～副社長！　今日から私はあなたの味方です！～
「ただで済むと思うなよ！　痛い目をみせてやる！」

　背中に向けられた怒鳴り声を聞きながら客間を出ると、俊介は再度ゆっくりと振り返った。


「鷺沼社長にもう一つ、お伝えすることがございました。鷺沼造園が圧力をかけて、展示会のメインスペース作成を邪魔したことについて、弊社に情報提供がありました。場合によっては公表させていただく用意はできておりますので、ご了承願います」

「私を……脅すというのか……？！」

　俊介の言葉に、鷺沼はその場で立ち尽くしている。

「さぁ？　どうでしょう？　そちらが脅しと受け取られるなら、そうなのかも知れませんね」


　俊介は表情を変えずにそう言うと、ふと奥の部屋にたたずんでいる由紀乃に顔を向けた。

　由紀乃は真っ赤な目を見開き、ただ俊介を見つめている。

　俊介は二人に深々と頭を下げると、鷺沼家を後にした。

　後ろからは「わぁっ」という由紀乃の泣き声が漏れ聞こえていた。



　俊介が出て行った部屋で、鷺沼は静かに由紀乃を振り返った。

「私は野田俊介という男を少し甘く見ていたようだな……。まさか吸収されそうになったトータルと組むとは……」

　鷺沼の大きなため息が部屋に響いた。

「由紀乃。……もう諦めろ」

「お父様……」

　由紀乃は両手で顔を覆うと、しばらく大声を上げて泣いていた。
< 417 / 435 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop