干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

渓谷へ

 初夏の日差しが、葉の隙間からキラキラと差し込んでいる。

 美琴はじんわり汗ばむ額に手をやりながら、ゆっくりと前を進む俊介を見上げた。

 普段のスーツ姿とは打って変わって、カジュアルな登山スタイル。

 帽子からのぞく笑顔がまぶしくて、美琴は無駄にドキドキしてしまう。


 なかなかまとまった休みを取れない俊介が、この週末だけはと予定を空けてくれた。

 二人で一歩一歩、山道を登っていく。

 息を切らしながら登りきり、顔を上げると目の前にあの風景が広がった。


「わぁ!」

 声を出し一歩踏み出したところで、慌てて俊介が腕を掴んだ。

 美琴ははっとして足をすくめる。

「また美琴が滑落するんじゃないかって、ひやひやします」

 やれやれとため息をつく俊介に、美琴は顔を真っ赤にして下を向いた。


「ご、ごめんなさい……」

 そう言いながら遊歩道の鎖に目線を向けると、目の前の鎖は何重にも引かれている。

 そして“ココ! 滑落現場!”の大きな文字……。

「これって、私のことですか?!」

 美琴がさらに顔を真っ赤にして叫ぶと、俊介は声を出して笑っていた。


 二人は滝と滝つぼが見える少し開けた所に出て、一旦腰を下ろす。

 深い淵へざあざあと流れ落ちる水流は強く勢いがあるが、その轟音(ごうおん)も目に映るコバルトブルーの色と相まって心を落ち着かせた。
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