腕の中で、愛でる
華澄にとって、飛馬は憧れの人だ。
そして、華澄の初恋の人。

でも飛馬は、華澄を華凪の娘としか見なかった。

“ごめんね。
華澄は、あくまでも親友夫婦の娘。
それ以上でも、それ以下でもないよ”

“私のこと、どう思ってる?”と聞いた時に言われた言葉だ。


あの時━━━━━
かなり、泣いたのを覚えている。

それを慰め、癒してくれたのが“御影”だ。



「カスミン」
「え?」

「大丈夫だよ!俺がいるからね!
“俺は”カスミンしか見てないよ!」
何かを察したように、微笑み言った御影。

「うん…ありがとう…」
華澄も微笑んだのだった。



そしてある日の体育の時間━━━━━━

「━━━━━みぃくん、離して!
着替えの時間がなくなっちゃう!
みぃくんも、行かなきゃ!」
「やだ!
もっと、チューしようよー!」

誰もいない教室で、キス責めを繰り返す御影。

「「御影!!」」
そこに、真理と静馬が呼びに来る。

「あ…しぃくん、しずくん……」

「御影、いい加減にしろ!」
「そうだよ!華澄、嫌がってるよ!」

「やだ!
カスミンと離れたら、死ぬ!!」

「はぁ…
華澄、俺と静馬で御影を押さえるから行きな!」
ため息をついた真理は、華澄に言い静馬と御影を押さえた。

「う、うん。ありがとう!
みぃくん、また後でね!」

パタパタと教室を出ていく、華澄。

「あーあ…行っちゃった………」

「御影」
御影を見据える、静馬。

「何?」
御影も鋭く睨み付けた。

「華澄を傷つけたら奪う」
「は?」

「三年前、そう言ったの覚えてる?」
静馬は、自身の左耳に触れながら言った。


『御影。僕の代わりに華澄のこと、よろしくね!』
『うん』

『あ、そうだ!これ!』
小学校の卒業式に、静馬は飛馬に連れられ九州に引っ越した。
その引っ越す前日に御影の所に来た静馬が、御影に渡した物━━━━━

馬の蹄鉄の形をした、小さなピアスだ。

『お互い、つけてようよ!
これは、誓い。
“華澄を、傷つけない”って。
破ったら、僕が奪うからね!』


━━━━━━御影も、自身の左耳に触れた。
「覚えてるよ」

「わかってるよね?
…………華澄が、父さんに惚れてたこと」

「わかってるよ」

「僕ね。
最近、父さんに似てきたねって言われるんだ」
「は?」

「その意味、わかるよね?」
「………」

僕なら、華澄を奪えるんだよ━━━━━━

静馬の目は、そう言っているように御影を見据えていた。

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