腕の中で、愛でる
「━━━━━大変ね!」

トイレの洗面台。
鏡とにらめっこするように見ていた華澄。
後ろから、声をかけられた。

「ん?
あ、はるちゃん!」

金渕(かなぶち) 晴音(はるね)
華澄の友人だ。

「御影、朝からずーーーっと、華澄“しか”見てないもんね!」
「あ、そうね(笑)」

「…………羨ましい」
「え?はる…ちゃん…?」

「彼と、喧嘩しちゃったの」
「そう…」
「華澄は、御影と喧嘩しないの?」

「喧嘩?
喧嘩……言い合ったりはあるけど……
喧嘩っていうのは、どうかな?ないかも?」

「そっかぁ」
「……………というより…」

「ん?」
「みぃくんと“喧嘩”はしたくないな」

「そりゃあ、喧嘩したい人はいないわよ?」

「あ、そうじゃなくて!
みぃくん…怖い人だから……」

「あ……そうね……」


「━━━━━カスミン!遅いよぉー!」
トイレから、教室に戻ると御影が駆け寄ってきた。

「ごめんね」
「もしかして、体調悪い?」
顔を覗き込み言う。

「ううん、元気」
「ほんとに?無理しないで?」
頬に触れ、心配そうに顔を歪ませる。
こんなに優しく、甘い御影。

でも、とてつもないギャップの持ち主だ。

「うん、ありがとう!本当に大丈夫だよ!」
だから華澄は、できる限り御影の機嫌を損ねないように努めている。

「とにかく、座って!」
華澄の手を引き、椅子に座らせた。
そして御影は机に腰かけて、華澄の頭をゆっくり撫でる。

「ん?」
突然、華澄が御影のジャケットに鼻を寄せた。
そしてクンクンと匂いを嗅ぎだした。

「ん?なぁに?カスミン。
犬みたーい!可愛いー!」
「みぃくん!!」

「ん?
怒ってる?
怒ってもチョー可愛いー!」
「煙草!!吸ったでしょ!?」

「え?吸ってないよ」
「だって、ジャケットから……」
再度、御影のジャケットを嗅ぐ。

「煙草を吸ってた人はいたけど…」
「じゃあ、みぃくんのジャケットに移ったってこと?」
「そうだね」
「そうなんだ……
ごめんね!疑ったりして……」

「そうだよ!
いくらなんでも、学校では吸わないよ!
カスミンに疑われるなんて、寂しいなぁ…」

「ごめんね!ごめんなさい!」

必死に謝る、華澄。
すると、御影が頬を撫でていた手を口唇に移動させた。
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