プリズムアイ
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人事部長が連れてきた女性に一瞬で吸い込まれるように恋をした。
彼女は堂々と自信に満ちているように強い眼差しで僕を見つめていた。
部長に抱かれた肩を払うようにして一歩僕との距離を詰めた彼女は凛とした低めの声で「フジタサキです、本日から営業部に配属されます。よろしくお願いします」と深々頭を下げた。
「よろしくお願いします、僕は営業の水島です。新卒の方ですね?」
ちらり、と人事部長の方をみやると大げさに頷いた。
「本当は人事課に彩りが欲しいとこなんだかなー」と昨今ではセクハラと思われかねない言葉をはいているにも関わらず、彼女は嫌な顔一つもしなかった。そしてはい、と短く返事をした。
「まあ、色々教えてやってくれ頼むよ」
そう人事部長は言い残すと、また彼女を連れて他の課にも挨拶という名の見せびらかしをしにいった。
彼女は歩いていく途中に振り向き、一礼して一緒に消えていく。僕は不自然に笑顔を作り、その姿を名残惜しくも見送った。
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