遠距離恋愛は人をダメにする。
きっと微かな記憶を辿って行くことになるだろう。

が、確か駅からそんなに離れていなかったような気がする。

保育園の頃の私と今の私。
もちろん、歩幅も違うから駅から近くといってもアパートまで今の倍以上歩いた感覚だろう。

しかし、すぐに微かな記憶が確かな記憶になる。

駅を出て、すぐにクリニックがあり、道を挟んでベーカリーがある。
完全に覚えている。

じゃあ、あそこの角にある緑は…
そうだ。
スーパーだ。
よくママと買い物に行った。

と、いうことは…
お米屋さん…あるよね。
うわっ、綺麗な建物になってる。

あれ、こんなところにコンビニあったっけ?

塾まである。

この辺で右に曲がってみる。
自然にアパートのあった方曲がっている。

アパートの近くには自動車学校があったはず。

新しいアパートが増えている気がする。
あんな家あったっけ?

そして、とうとう見つけた。
以前に住んでいたアパート。

懐かしい。
懐かし過ぎる。

私が住んでいた部屋は…

あ、あそこだ。

今は違うカーテンが見える。
当たり前だ。
今は違う家族が住んでるのだろう。

懐かしさと…なぜか寂しさもある。
仕方がない話だけれども

あの部屋での思い出がよぎる。

遊んでいた部屋。
キッチン。
お風呂場。

私はポツンとその建物の前でたたずむ。

私の知らない時空が流れる。

あれだけ懐かしさを感じたのに、今は倍以上の寂しさがある。

そうだ。保育園に行こう。
保育園なら、卒園した場所だからここよりは吹っ切れた心で見れるはずだ。
どうも、住んでいたアパートはそんな気持ちになれない。

再度、駅の方に向かう。

すると、前に中学生らしき女の子ふたりが歩いてくる。

私は急に緊張する。
知っている子かもしれない。
私はうつむく。

そして、その子たちとすれ違う。

ちらっとお互いに見た。と思う。

でも、何も起きなかった。

安心なのか、それともがっかりなのか。
私には分からなかった。

「あれ?もしかして晴良ちゃん?」とでも言って欲しかったのか。

それとも通り過ぎてから、あのふたりがこちらを見て「あの子って確か?」みたいな話をして欲しかったのか。

でも、私自身、振り向く勇気は無かった。

あのブレザーの制服は、この辺りの校区の中学生だよね。
あのまま、ここに住んでいたら八小に通い、三沢中だったんだよね。

ふぅ。
無意識にため息をついてしまった。

さ、行こう。

その時、前から声をかけられる。
「あれ?もしかして晴良ちゃん?」
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