遠距離恋愛は人をダメにする。
私はその人と目が合う。

「晴良ちゃんだよね」

そこにはひとりの中年女性。
いわゆるおばさん。
ま、ママとあまり歳は違わない感じの。

「覚えてない?今日はどうしたの?晴良ちゃんのママも来てるの?朋くんは?」
矢継早に質問される。

圧倒される。

そ、そうだ。
この人、アパートの近くに住んでいたお兄ちゃんの同級生のママだ。
いわゆるママのママ友ってやつ。

「あ、まぁ」
動揺しまくりで、質問の答えになっていない答えをしてしまう。

「そうなの?懐かしいわぁ。晴良ちゃんも大きくなって」

ううっ、この場からすぐに立ち去りたい。
完全に固まる私。

「あ、そうだ。まだ、時間ある?家に寄って行きなさいよ。悠も喜ぶよ」

うん?
悠?

「覚えてない?晴良ちゃん。さ、おいでおいで」

半ば強引に連れていかれる。

私はキッパリと言えば何とかなった局面。
でも、この人に圧倒され、まともに返答出来なかった私の負け。

ものの1分程度で、その人の家に玄関前。

確かに、こんな家だった。
見覚えがある。

「さ、あがって」

「おじゃまします」
きっと、昔は頻繁に来ていたのだろう。
初めてこの家の中に入る感じより、この玄関も、この廊下も懐かしさを感じた。

違うのは視線の高さぐらい。

「悠?懐かしいお客さんだよ。ほら、晴良ちゃん。そこのアパートに住んでた。お兄ちゃんの同級生の朋くんの妹さん。覚えてる?」

「ええっ、晴良ちゃん?」
奥から声が聞こえたと思ったら…ドタバタ音を立ててやってくる。

すると、そこには同級生?いやいや年上?らしき…

「覚えてるも何も…」
ニコニコしながら、私に寄ってくる。

「久しぶりっ。元気?今日はどうしたの?また、こっちに戻ってきたの?」

悠の顔を見て、私も懐かしさと…そして何より…

そうだった。ご近所ってこともあり、いつもいつも一緒に遊んでいた。

お互いの家で…
近くの公園で…

よく遊んでいた。

「うん。元気だよ。悠は小6だよね。来年、中学生だよね」

「うん。そう」
最初見たときは、同級生か年上に見えたけど、確か年下だった。1つ下だったんだよね。思い出した。
やはり、今の私が暮らしている田舎と違って、こちらの小学生は垢抜けている。
向こうだったら、間違いなく中学生で通用する。

「まぁ、まぁ、こちらに来なさいよ」
そういって、悠のママは飲み物を準備してリビングに案内する。

そして、ソファーに座って…

やはり、懐かしい。
そりゃ、所々、変わっている物もある。

テレビも大きくなった。
パソコンも…

そして、何より…ここに来るとリビングに散らかっていて、よく一緒に遊んでいた悠の玩具が無い。

アニメの変身アイテム

動物のぬいぐるみ

「晴良ちゃんはもう中学生なんだよね。楽しい?部活は何してるの?」

悠が聞いてくる。

「全然、楽しくないよぉ。勉強ばっかり。勉強ムズいし、あ、部活は吹奏楽だよ」

「吹奏楽なんだぁ。ママ、晴良ちゃん吹奏楽なんだって」

「へぇー。吹奏楽なんだ。どんな楽器やってるの?」

「ホルンです」

「そうなんだ」
悠のママはニコニコしている。

悠はホルンって何?って顔をして…
「ホルン?」

すると、悠のママは…
「こーんなやつ」
両手を使って説明している。

「はぁ?わかんないよぉ」
悠は、笑いながら文句を言う。

「ほら、こういうの」
私はスマホでホルンの画像を見せてあげた。

「ああ、これね。知ってる知ってる」

「そういえば、これからどうするの?」
急に悠のママが聞いてくる。

「せっかく、ここに来たから、もう少しうろちょろしたいかなって」

「うろちょろ?」

「通ってた保育園とか?聖蹟の方とか?」

「ああ、そうね。どう変わってた?もしかして、百草園に着いたばかり?」

「はい。駅に着いてすぐに住んでたアパートを見に…」

「なるほどぉ、そうだよね。まずは住んでたところだよね。懐かしかったでしょ」

「はい。変わってなかったです。でも駅前のコンビニとかは…」

「あ、そうね。晴良ちゃんがいた時は、あのコンビニは無かったかもね」

「あ、じゃあさぁ…」
急に悠が…

「晴良ちゃんの同級生の…明ちゃんや志保ちゃんや優くんには会ってないの?」

「うん。全然」

「そうなんだ。せっかくだから、会えるといいね」

「そうだ。今から保育園行くんでしょ。私と行こうよ。私も懐かしいかも。ママ、いい?」

「うん。いいけど、晴良ちゃんいい?悠と一緒で?」

「はい。いいですよ」

「やったぁ」
悠は、嬉しそうに立ち上がった。

「じゃあ、行こう、行こう」

「じゃあ、保育園行って、悠ちゃんとは駅でバイバイして、そのまま聖蹟に行くと思うので」
私は悠のママにそう告げる。

「うん。気をつけてね。今度はママとお兄ちゃんと一緒においで」

「はい。ありがとうございます」

そう言って、靴を履き、悠のママに見送られながら、家を出た。

そして、隣には…

小さい頃に、まるで本当の妹のようにいつも一緒にいて、今も本当の妹のように可愛い…悠がいる。
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