遠距離恋愛は人をダメにする。
私と悠ちゃんは、ふたりの通ってた保育園に向かう。

途中、同級生の誰かに会うかもしれない期待と不安。
会いたいような会いたくないような気持ち。

笑顔で「えー。久しぶりだね」とお互いに言えるだろうか。

それともお互いに変わりすぎて「こんな感じだった?」となぜかガッカリしちゃうんじゃないか。ガッカリされちゃうんじゃないか。

はたまた「こんな子いた?」と記憶の片隅にもお互いに無くなっていたりしないか。

わかってる。

だって、保育園の卒園以来だから、仕方がないっていうのも。

私だって自信はない。

相手だけを責められない。


だけど…
やはり、覚えてて欲しいという身勝手な願望。

だから、期待と不安になってしまう。

駅横の踏切を渡り、街道に出る。
横断歩道を渡り、しばらく街道を歩く。

この辺りは、全く覚えていない。
平日の朝と夕方…ママの自転車の後ろに乗って、保育園に通った道なのに…

そして、今から長い坂を登る。

そもそも、この百草園駅の辺りは…線路を挟んで、多摩川に向かってずっと平地のエリアと街道とずっと丘陵地のエリアに分かれる。

保育園はその丘陵地にある。

毎朝、ママは自転車の後ろに私を乗せたまま、自転車を降りて坂を登っていた。
それだけは鮮明に覚えている。

今、中学生の私がその坂を登る

いきなり、急な坂に遭遇する。
さらになだらかなカーブ。

うっ、しんどい。

今だったら電動自転車を使うだろうけど、当時は普通の自転車。

そりゃ、自転車を降りるだろう。
私だって、降りて自転車を引っ張っていくだろう。

ましてや、後ろに園児を乗せてるんだし。

この道は、両側に歩道があり、真ん中に車道。
車は頻繁に通る。

街道は店がたくさんあったが、坂に入ってからは店らしき店は全くない。

完全に住宅地。
しかし、道沿いはもちろんのこと周りには
緑はたくさんある。

ここは東京?って感じだ。

でも、急な坂を登った先の左手には…

“日野市立七生緑小学校”と書かれていた。

そう。日野市なのだ。

「こんなに遠かった?」

「晴良ちゃん。まだまだだよ」

「えっ」

やはり、自転車の後部座席は楽だったに違いない。

そこを通り過ぎると…なだらかな坂。
しかし、今度はなだらかだけれども、アップダウンがある。
さすが、丘陵地だ。

団地らしき建物。
区画整理された住宅地。
信号。
駐車場。

「あれ。あれだよ」
悠ちゃんが柿色の屋根の建物を指差す。

“もぐさ台保育園”

悠ちゃんの家を出てから30分以上。
長い道のりだった。

「疲れたぁ」

「私も久しぶりにこっち来たけど、遠いよね」

「うん」

私はマジマジと歩道からこの建物を見る。

保育園の道路沿いの壁には、2006年・2007年・2008年度の卒園記念として、卒園した人の顔の絵と名前が描かれていた。

何となく記憶にある壁。

「私たちの卒園記念って何だっけ?」

「私たち?」

「あ、悠ちゃんは1つ下だったよね」

「確か、私の時は…あれ?何だっけ?」

「私も思い出せない」
ふたりは、顔を見合せて笑う。

きっと、見れば思い出すんだろうけど、保育園の思い出ってそんなもんだよね。

卒園記念だって、自主的に創作したもんじゃなくて、保育士の先生に言われるままに作っただけだろうし…

しばらく、休みの保育園の中を覗きこんで…

「じゃあ、戻ろうか」

「そうだね」

と、今来た道を戻ることに対して、若干ゲンナリしていた時に…

「悠ちゃん」
後ろから声がした。

振り返ると…

「あ、桃香さん」

「珍しいね。こんな所で会うって。どうしたの?」
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