遠距離恋愛は人をダメにする。
「ここ、私たちが通ってた保育園なんです」

悠ちゃんは左の建物を指差す。

「へぇー、ここだったんだ」

「桃香さんもここですか?」

「ううん。私は百草台幼稚園の方」

「そうなんですね」

ちらっと桃香という人が、私を見る。

「お友達?」

桃香は悠ちゃんに聞く。

「はい。前まで私の家の近くに住んでいた…」

「今は違…」

「あっ、でも、桃香さんと同い年ですよ」

「そうなんだぁ」
すると、急に桃香の態度が和らぐ。

「今は?」

「愛知に」

「へぇ!すごいっ。私のおばちゃんも愛知に住んでるから年に1回は行くよぉ」

「えっ、愛知のどこ?」

「犬山ってところ」

「ええっ、犬山?私が今住んでるところの近くだよぉ」

「えーと…」

すかさず、悠ちゃんが
「晴良ちゃんです」

「晴良ちゃんも犬山なの?」

「ううん。隣の隣かな。江南ってところ」

「うーん。わからないや。ごめんね」

「ううん」
それは仕方がない。
名古屋や犬山なら、全国的にも知られてるけど…

「じゃあ、私がそっちに行ったら会いたいね」

「うん。会いたい会いたい」

「じゃあ、LINE交換しようよ」

「うん」
そう言うと、ふたりはLINE交換を始める。

「ああ、いいなぁ」
悠ちゃんも…LINE交換。

そして、3人は話をしながら駅へ向かう。

「ふたりは?」
私は、桃香ちゃんと悠ちゃんの関係が気になった。

「聖蹟のダンススクールで一緒なんだよね」

「ダンススクール?」

「京王のC館にあるスポーツジムの」

「へぇー。いいなぁ」

「そういえば、桃香さん。今からどこへ?」
今日の桃香さんは、いつもと違いちょっとおめかしをしている。

うっすらとメイクもしていて。

「へへっ」
桃香ちゃんは、ちょっと照れて

「もしかして、もしかして…」

「ちょっと会ってくる」

「彼氏さんですかぁ」
桃香ちゃんと悠ちゃんがそんな会話をしている。

「今ならオーパー行ってくる」
聖蹟桜ヶ丘駅前にあるショピングセンターだ。

うわっ、なんかこの雰囲気嫌だなぁ。
私は…この展開に不安を感じる。

「晴良ちゃんは?」

ほら、きた。
こうなるよね。

「えっ?」
一応、とぼけてみる。

「晴良ちゃんは彼とか…」

「いない。いない」
本当のことだけど…言うのは辛い。

「晴良ちゃん。もともとはここに住んでたんだよね。こっちに彼氏作っちゃえば?」
桃香は笑いながら…冗談を言う。

「そうしようかなぉ」
私も笑いかさながら…冗談で返す。

そう言ってる間に…駅に着く。

「じゃあ、悠ちゃん。ありがとうね。お母さんにもよろしく伝えておいて。また、LINEしてね」

「うん。また、会おうね」

そう言うと、私と桃香ちゃんは駅の階段を上がっていく。

悠ちゃんは手を振って…踏切を渡っていった。

ふたりは改札を通り、新宿方面のホームに立つ。

「晴良ちゃんはもう帰るの?」

「ううん。あと聖蹟でもちょっと寄ろうかと」

「そういえば、晴良ちゃん。晴良ちゃんのお母さんは?」

「えっ?」

「えっ?」

すると、電車が来た。
ふたりは、普通新宿行に乗る。
たった1駅だけど…

「晴良ちゃん。もしかして、今日って、ひとりで来た?」

「まぁ、そ、そう、かな」

「すごーい。晴良ちゃん。すごーい。行動力」

「悠ちゃんは知ってるの?」

「知らない」

「すごーい。凄すぎ」
桃香ちゃんは、めちゃ笑い、でも、ちょっと尊敬って顔をしている。

「えっ、なぜ?なぜ?ひとりで来たの?なぜ、ここ?」

ま、その質問。
聞きたくなる理由もわからないこともない。

「自分探し?」

「何それ?」
さらに、桃香ちゃんは笑う。

「晴良ちゃん。面白い人」

そう言ってる間に、電車は聖蹟桜ヶ丘駅に着く。

「じゃあ、私はここで」
改札を通った所で…

今から彼に会う桃香ちゃんの邪魔に
なっちゃうし、私はアートマンの方に寄りたいだけだし…

そう思っていたのに…

そう思っていたのに…

しっかり桃香ちゃんの彼は…改札を出たすぐのところにいた。

桃香の彼は…不思議そうな顔をして…改札を出た桃香ちゃんと私を見て…

「えっ?なんで?」

「は?」
桃香ちゃんも彼の反応に不思議に思う。

「せ、せいらだよね」

「は?」
今度は、桃香ちゃんの彼の言葉に私も不思議に思う。
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