遠距離恋愛は人をダメにする。
菜々は笑いながら、リュックを持った。

「えっ?帰るの?」

「うん。続きは帰り道で」

「う、うん。わかった」
私は慌てて、リュックをかけた。

「ど、どうしたん?急に」

「いや、教室に居た子たちに聞こえてた感じがしたから」

「あ、そうかも」

「晴良の声がでかいから」

「私?」
菜々は笑いながら、教室を出る。

「ちょ、ちょっと待ってよぉ」
私も教室を出る。


相変わらず廊下も暑い。

「今日さぁ、部活無くて良かったよね」

「うん。今日、顧問いないんだよね」

「そうみたい」

「先生たちの研修って言ってたみたい」

「先生たち?」

「音楽の」

「へぇ、そんなのあるんだぁ」

「いろんな学校の音楽の先生たちが集まるんだって」

「じゃあ、音楽の先生たちってことは演奏会みたいな?」

「いやいや、違うでしょ」

「ま、でも、本当に今日部活無くてよかったわぁ」

「うん、こんな暑いのに部活は無いわ」

教室を出て、少し廊下を歩いただけで汗がにじむ。

「確かに部活の時は冷房効いてるけど、パート練する時は結局廊下だもんね」

「仕方ないよぉ。金管は」

「うるさいからなぁ」

「ははっ、確かに」

「3年生の最後のコンクールも終わっちゃったし、1、2年だけでって、やはりまとまらないよね」

「うん。3年の先輩たちがいたからまとまってんだよね」

「そうだよね。でも、うちら、どうするの?」

「何が?」

「ホルンって、2年の先輩いないから、1年の私たち2人だけじゃん」

「そうだけど、楽じゃん」

「いやいや、そうだけど。菜々、初心者だよね」

「うん」

「うんじゃないし、私も初心者なんですけど」

「知ってる」

「秋のコンクールに向けてどうするの?」

「練習するだけじゃん。晴良は練習しないの?」

「もちろん、するけどぉ」

「私は晴良とふたりで練習出来るなら、それでいい」

「まぁ、そうだけど」

「変に気を使わなくていいし。晴良は私に気を使う?」

「気を使わないけどさぁ」

「じゃあ、問題無いし」
そう言って、靴に履き替え、外に出る。

「暑っ」

こんな菜々のポジティブなところが羨ましい。
何も気にしないマイペースのようにみえて、でも、さっきの教室の他の子たちの視線を素早く感じるなど、実はすごく周りが見えてて。

きっと、半数以上の子たちは、知らないんだろうなぁ本当の菜々を。

確かに、クラスの子が菜々に「菜々って悩みなさそうでいいよね」って言ってたけど、菜々って嫌な顔しないで「そう見える?やばい悩み作らなきゃ」って笑って言えるところなんて、尊敬する。

「で、さっきの話の続きなんだけど」

「うん?先生の演奏会?」

「違うっ」

「はぁ?」
こうやってとぼけるのも菜々らしい。
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