遠距離恋愛は人をダメにする。
「来週の日曜日はふたりで名古屋行くんだ」

「名古屋?」

「大須と名駅のアニメイト」

「いいね」

「ほら、来週、私の誕生日だし」

「ああ、菜々の誕生日かぁ」

そうかぁ。
素直に羨ましい。



誰にだって、過去はある。
いろんな人と関わってきたはず。

関わりの中にそれぞれの思い出があり、それぞれの時間の経過がある。

しかし、ほとんどが時間の経過で忘れてしまうものだ。

菜々と彰くんとの過去。
菜々は忘れた思い出。
彰くんは忘れられない思い出と想い。

そして、再会を果たす。

こんな小さな街の中でも、幼なじみと共に現在が進行し、未来が始まっていたのだ。


そういう私は…どうだろうか。
小学生になる時を契機に、この街に引っ越してきた。
小学生の時は、それなりに好きになった男の子はいた。

でも、それだけ。

友達と「晴良は○○くんのことがお気に入りなんだよね」と笑いながら話をする程度。
その事は相手の男の子の耳に入る。
でもお互いに友達に冷やかされるだけ。
進展とかある訳もなく、その都度、その話は立ち消えになる。

それを6年間繰り返す。

そして、小学校を卒業して、中学生になる。

そういえば、私って保育園の時、何してたっけ?

幼なじみといえる男の子は?

菜々みたいに忘れた思い出ってあるだろうか?

菜々の話を聞いて、私は、急に過去に住んでいた街が懐かしくなる。

何かあるのでは…

ただ漠然とそうよぎったのである。

来週の日曜日。
ママには、菜々と名古屋に行くと嘘をつき、私は新幹線に乗り込んでいたのである。
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