あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
誰もいない静かな屋上。
そう思われたが…。
スーッと伸びてきた人影が現れた。
「…どう見ても穏やかそうではないな…」
そう呟いたのは聖龍だった。
ヒカルが座っていたベンチにまで歩いた来た聖龍は、ベンチの下に何か落ちているのを目にした。
何だろう?
そう思って拾ってみると、それはとても綺麗な石で小さいながらも水晶のように輝いていた。
「これ…」
聖龍は何か見覚えがあるようで、じっと石を見つめていた。
(あの…)
高校生の時、聖龍は一人教室に残っているおデブのヒカルに声をかけた。
早く帰りたい女子達に、掃除を押し付けられても楽しそうに掃除していたヒカルは、聖龍に声をかけられ振り向いた。
(手伝うよ、俺も)
(別にいいよ。もう終わったから)
気にしないでと、ヒカルはニコっと笑って掃除道具をかたずけ始めた。
掃除道具をかたずけ終えたヒカルは、鞄を手に取った。
その時、ヒカルの鞄にキラリと光る何かがついているのを聖龍は目にとめた。
何だろう? と、目を凝らした聖龍の視界に入って来たのは。
とても綺麗なキーホルダーに、水晶のような石が入っているものだった。
(ねぇ、そのキーホルダー珍しいね)
(え? ああ、これはうちの父が作ってくれたの。ずっと小さい頃から持っているから、かなり古い物だよ)
(お父さん、そんな綺麗なキーホルダー作れるんだ。すごいね)
(趣味だって言っていたから。これをつけていると、他にはない物だから自分の鞄がすぐに判るから便利なの)
珍しいキーホルダーを、聖龍はずっと忘れたことはなかった。
それと同じものが今目の前にある。
ギュッとキーホルダーを握りしめた聖龍。
握りしめたキーホルダーからは、とても暖かいエネルギーを感じる。
(…ヒカルを護って頂けませんか? )
優しい男性の声に、聖龍はハッとなった。
(ヒカルは一人で全部抱え込んでしまいます。…お願いします、ヒカルを護って下さい…)
優しい声は聖龍の胸にキュンと響いてきた。
この声はきっと、ヒカルのお父さんだ。
そう思った聖龍の脳裏に見えてきた風景が現れた。
夜道、一人で歩いているスーツ姿の男性。
その後ろをつけてきているフードを被った女性らしき者がいる。
男性の傍に来るとフードを被った女性は、キラリと光るナイフを取り出し男性を後ろから刺した。
痛みでその場に倒れこんだ男性を見て、フードの女性は何食わぬ顔をして去って行った。
倒れこんだん男性は、そのままぐったりとなってしまった。