あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…

 歩道橋から転落した里菜の周りに、人だかりが集まって来た。

「大丈夫ですか? しっかりして下さい」
 太ったヒカルが里菜の声をかけている。
「救急車! 早く呼ばないと! 」
 太ったヒカルの傍にいた、まだ小学生くらいの妹の愛香里が携帯電話を取り出して電話をかけ始めた。
 その向こうに中学生の頃の聖龍と凛太朗がいた。
「大丈夫ですか? 」
「俺達と同じ中学の人だ。大丈夫かな? 」
 聖龍が里菜の傍に歩み寄って行った。
 転落した里菜は、痛みをこらえて聖龍を見た。

「お姉ちゃん、今救急車呼んだよ。あ! 」
 愛香里は里菜の足に鮮血が流れ落ちてくるのを見て、着ていた上着を脱いでそっとかけた。
 
 その鮮血は、当時不通りな妊娠をしていたお腹の子供が流産した鮮血だった。

 
 動画を見た里菜は真っ青な顔になった。

「貴女に上着をかけてくれた、この小学生の女の子は。今、目の前にいる彼女ですよ」

 嘘…
 あのデブのヒカルとこいつが私を助けてくれたの?

 あの時。
 痛みが酷い中、そっと上着をかけられた温もりが忘れられなかった。
 上着をかけてくれたのは彼だと思っていたのに…。

「貴女は一番優しくしてくれた人を、不幸に陥れた! 僕は、そんな貴女をぜったにい許さない」
「そんな事、覚えてないわ! こっちは、あの時大怪我して流産までしてたんだから! 」

 ヒカルはフッと小さくため息をついた。

「あの時。何故だか判りませんが、貴女のことをとても可愛そうだと思いました。沢山傷ついて、痛い思いをしていると思ったので、すぐに助けてあげなくてはと。そう思ったので、一番に救急車を呼びました。でも、そうしたが故にここまでの沢山の犠牲者が出てしまった。自分には、とても重い責任があると思っています」

 
 バタバタと足音が聞こえて来た。
 

 エントラスの入り口から入って来る複数名の警察官と、エレベーターから降りて来た奏弥と聖龍、そして数名の社員達が駆け寄って来た。

「あの時、貴女を助けずにあのまま…放置しておけば、ここまでの殺人は繰り返されなかった。…そう思っていました。…なので…」

 カチャッ!
 掴まれた里菜の手に手錠が掛けられた。

「な、なんなの? 」

 手錠をかけられ驚く里菜に、ヒカルは手帳を取り出し見せた。

「自分は刑事です。姉を殺した貴女をずっと追っていました。そして、やっと手がかりを掴んだのでこの会社に潜入捜査として社員のふりをして潜りこんでいたのです」
「刑事? あんたが…」

「貴女の数々の異変ぶり、そして自ら自供している姿も防犯カメラで押さえています。今日、やっと逮捕状が下りました」
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