あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
(私は千堂里奈に殺されました)
え? …
聖龍はゆっくりと目を開けた。
何故こんな声が聞こえたり、過去の光景を俺に見せるのだろうか?
そう思いながら空を見上げた聖龍。
(聖龍。好きな人いるか? )
それは凜太郎に不意に聞かれた。
高校生の時に夜寝る前に、凛太朗がいつもよりとても真剣な顔をして聖龍に聞いてきた事があった。
(どうしたの? そんな事聞いてくるなんて)
(いや。僕は、今すごく好きな人がいるんだけど。聖龍はどうかな? って思ったんだ)
(俺は…いるよ。でも…相手の子に避けられているから)
(え? どうして? )
(うーん…。避けられているって言うか、自分から人を寄せ付けないようにしている感じがするな)
凛太朗はちょっとポカンとした顔をしていたが、すぐさま笑顔になった。
(もしかして…僕と同じ人を、聖龍も好きなのかな? )
(え? 違うだろう? 兄貴の好みの人とは思えないし)
凛太朗はクスッと笑った。
(お前、僕の好みしってた? )
(知ってたって…どう考えても、兄貴の好みじゃない人だよ)
ふーんと、凛太朗は小さく笑ってそれ以上何も言わなかった。
しかし。
その後に、聖龍はずっと好きな人に告白しようとした時。
凛太朗に先を越されてしまったのだ。
(聖龍…。お前は人一倍優しいから、人の痛みが判る。それ故に、人には聞こえない声が聞こえるのだと思う。お前の本当の、お父さんも見えないものが見えたり、亡くなった人の声を聞くことが出来る人だったんだよ。その力を自覚した時、本当に必要な人の為に使って欲しいと。父さんは願っている。…本当に大切な人の為に…自分が幸せになり、相手も幸せになる為に使って欲しいと思うよ…)
凛太朗が亡くなった時、奏弥が聖龍にそう言った。
亡くなった凛太朗の声が聞けたわけじゃなかったが、同じ人を凛太朗が好きだった事や、なんとなく凛太朗が心の中まで見透かしていたような気がして悲しみが止まらなかった。
だが数日たったころ。
亡くなった凜太郎の写真を見ていると。
(聖龍。あの子の事を頼む…。悲しみを一人で全部背負ってしまっているから…)
そう聞こえてきた。
あの子って誰の事を言っているのだろう?
その時の聖龍にはよく分からなかった。
だが…。
聖龍はもう一度キーホルダーに目をやった。
誰もない屋上に来てお昼を食べていたヒカル。
そして誰も来ない屋上でたまたま休憩していた聖龍。
そんな聖龍がヒカルが落としたと思われるキーホルダーを拾って、そのキーホルダーから感じとった事…。
それは偶然ではない必然だと思った。
「父さんが言う通り。俺には、特別な力があるようだな。…とりあえず、これは預かっておこう」
ジャケットの内ポケットにキーホルダーを閉まって、聖龍はそのまま去って行った。