あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
2週間後。
ヒカルは正式に宗田ホールディングを退職する事になった。
最後の挨拶へ来るべきところだが、取り調べが立て込んでいて来られない為、文章にて通知してきた。
潜入捜査である事を隠していた事を、深く詫びているヒカル。
手紙の最後にはヒカルの本当の名前、城原愛香里と書かれていた。
手紙を読み終えた奏弥はやっと肩に荷が下りたような気持だった。
「颯太…。やっと、君との約束を果たせたような気がする。何もできなかったけど、彼女が本当に幸せになってくれる事が君との約束だと私は思っているよ」
手紙を大切にしまった奏弥。
「さてと…。そろそろ、大切なお姫様を迎えに行くときかな? 」
そっと席を立って社長室を出て行った奏弥…。
金奈警察署。
取り調べが続いていた里菜は、しっかり地味になり長い髪は後ろで束ねグレーの地味なブラウスに紺色のスラックス姿で素直に取り調べに応じていた。
今日は今後は検察局へ引き渡す為、警察署では最後の取り調べになる。
最後の取り調べを担当するのはヒカル事愛香里だった。
潜入捜査の為にヒカルの名前を名乗っていたが、それも終わった事から本来の名前に戻した愛香里。
かっちりした黒いスーツ姿の愛香里を見て、里菜は穏やかな目を向けた。
「あんたには感謝しているのよ、私に優しくしてくれたたった一人の人だから」
ん? と、愛香里は里菜を見た。
「ずっと聖龍さんが優しくしてくれたと思って、執着していたけど。本当はアンタだったのね。だからじゃないけど、初めて会った時からなんとなくアンタを見るとホッとさせられていたの。その気持ちに、もっと素直になっていたら。ここまでには、ならなかったかもしれないと。今は思うの」
「そうですか」
「ねぇ、今更謝っても許してなんてもらえない事なんだけど。あんたのお姉さんと、お父さんを殺してしまった事を謝るわ。ごめんなさい」
言いながら、里菜はそっと頭を下げた。
正直言って今更謝てもらってもと、愛香里は思ったが。
里菜の素直な顔を見ていると、そんな気持ちもスッと消えて行った。
「…許します。…」
え? 本当に?
里菜は嬉しそうな目をして愛香里を見た。