あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「自分は貴女を許します。後は、素直に刑に服して下さい」
「ええ、そうするわ。結局殺したい奴を殺しても、次から次へと殺したい奴ばかりが現れるだけだって分かったし。人を使って仕掛けても、予想外の事もあるんだって分かったわ。…でもね…私、今気づいたの本当に欲しかったものに」
「欲しかったものですか? 」
「ええ。…私ね、家族が欲しかったの。…産まれた時から施設にいて、養女として引き取られた時は家族ができて嬉しいって思っていたの。親戚の人って聞いていたから、お母さんの血筋の人なんだって嬉しかったの。だからね、人を好きになってその人と家族を作りたかったの。ずっと、聖龍さんを想っていて。聖龍さんの子供が産みたかったの。好きな人の子供を産んで、一緒に育てて行く。そして、私のような思いは絶対にさせたくないってそう思っていたの」
穏やかな目をして話している里菜は、まだ幼い子供の様な顔をしていた。
憎しみが募りモンスターのように殺人に走ってしまった里菜だが、中身はまだ幼い子供のままだったのかもしれない。
「貴女に、お伝えして下さいと施設から預かって来たものがあります」
スッと、机の上に置かれて一冊の日記。
その日記はピンク色のノートで、愛する我が子へと書かれていた。
里菜はその日記を見ると、ジーンと胸に込みあがるものを感じた。
「この日記は、貴女の実のお母さんが貴女が産まれるまでの間ずっと書き続けた日記だそうです。そして、産まれてからは闘病生活の中で貴女の将来へ向けてのメッセージが書かれています」
目頭が熱くなるをの感じながら、里菜は日記を手に取った。
(産まれてくる我が子へ。6ヶ月も気が付かなくてごめんね、でも嬉しかった。こんな私をお母さんに選んでくれて。でもごめんね、お母さんはきっとあなたが大きくなるまで生きていられないから。病気が発見されて、あなたを産むと命が縮まるって言われたのだけど。私を選んで産まれて来たあなたを、絶対に産んであげたいと思ったから。出産する道を選びました。幸せになりなさい。私のようにはなってはいけないわよ)
(もうすぐ会えるね。楽しみにしているよ、女の子だって分かったけどとっても嬉しい。きっとあなたは世界一の美人になるわよ。沢山人を好きになって素敵な恋をして、幸せになってね。私はあなたのお母さんになれて、嬉しいわ。幸せな人生は得られなかったけど。あなたが私を選んできてくれたことは、とっても嬉しいわ)
(やっと会えたね。産まれて来てくれて有難う。可愛い女の子として育ってほしくて、里菜って名前を付けたの。この後は施設に引き取られてしまうけど、名前を付ける事は許してもらえたから。世界一の幸せ者になれるように里菜ってつけたわ。天使のように可愛い里菜。幸せになってね)
(大きくなった里菜へ。もし、貴女がこの先私の事を知ってもなにも引け目を感じることなく生きて行きなさい。お母さんの罪はお母さんが全部持ってゆくから。貴女には1ミリとも関係ない事よ。貴女は貴女の人生を強く生きて、幸せになりなさい。それがお母さんが一番望んだことよ。もうすぐ、お母さんはこの世からいなくなるけど。里菜の事はずっと見ているから。里菜が幸せになる姿を、見えない世界で見ているからね。…里菜…愛しているわ…有難う、産まれて来てくれて…)
最後の方は文字が乱れていて、力尽きそうな文字で書かれていた。
沢山「幸せになって」と書いてあり「産まれて来てくれて有難う」と書かれていた。