あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「お父さん…。ずっと素直になれなくて、ごめんなさい。…どんなに喧嘩しても、お父さんは一度も私を責める事はなく怒りもしなかったね。もう、見捨てられているんだって思っていたけど。今なら分かる、お父さんは私の気持ちを受け止めてくれていたんだって。…お姉ちゃんも、いつも自分の気持ちに素直になりなさいって言ってくれていたけど。私、実際に凛太朗さんに面と向かって会ったら急に恥ずかしくなって逃げてしまったの。でもその後に、凛太朗さんが転落死してしまって。ずっと自分を責めていたの。…千堂里菜に復讐してやろうって、ずっと思ってそれを糧に生きて来たけど。できなかった…。彼女、すっかり別人のように穏やかになって刑に服してくれているの。…だから…私も素直になっていいかな? 」
お墓を見つめて、愛香里はそっと微笑んだ。
「もう、人を好きになる事もないし。恋愛なんて絶対にできないって、ずっと思っていたけど…。こんな私の事を、愛していると言ってくれる人がいるの…。その人と…幸せになる事を、許してくれる? 」
キラッと、木々の隙間から太陽の光が差してきた。
その光は祝福してくれているようにも見える。
「愛香里…」
後ろから声がして、驚いて愛香里は振り向いた。
「俺も、一緒にお参りさせてもらえないかな? 」
ニコッと、爽やかに笑う聖龍がいた。
今日は仕事で朝早く出勤したと聞いていたが…どうして、ここに来てくれたのだろう?
愛香里は驚いた目のまま聖龍を見ていた。
「驚かせてごめん。今日は早く出勤して、仕事をお終わらせたんだ。俺の元婚約者の命日でもあって、今日で3年たったから。もうケジメをつけようと思ってお参りに来たんだ。そうしたら、愛香里の姿が見えたから来たんだ」
「そうだったのですか。どうぞ、遠慮なくお参りして下さい。きっと、姉も喜ぶと思います」
愛香里の傍に歩み寄り、聖龍はそっとお墓に手を合わせた。
今日は元婚約者の命日だったんだ。
一度は結婚を決めた人の事、そんな簡単に忘れる事はできないと思うけど…。
そんな思いで愛香里は聖龍を見ていた。