あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「私、宗田さんと結婚する事を決めました」
「宗田さんって、息子の聖龍君とかい? 」
「はい。随分と迷ったのですが、彼といるとお姉ちゃんの思い出と一緒にいられるような気がするので。学生時代のお姉ちゃんの事を、よく知っているので。何となく、安心できるのです」
幸樹は暫くだまったまま、少し視線を反らしていた。
黙っている幸樹を見ていると、愛香里はちょっと不安を感じた。
「…きっと、颯太君が生きていたら今の私と同じ気持ちになっただろうね。…娘の幸せは嬉しいけど、結婚して苗字が変わってしまう事がとても寂しく感じるんだ…」
ニコッと、笑った幸樹。
その笑顔はおめでとうと言ってくれているように優しかった。
「ヒカルの分まで幸せになるんだよ。結婚して、苗字が変わっても愛香里が私の娘である事は変わらない。いつでも頼ってきて構わないからね」
「はい、ありがとうございます」
ホッとした愛香里。
その後、輝樹にも結婚の報告をした愛香里。
「おめでとう、愛香里。僕も、この先もずっと愛香里の兄だよ。困った時はいつでも頼ってくれて構わないから」
「はい。兄さんも、幸せになってね」
「ああ、心配しなくていいよ」
みんなに祝福され、聖龍と愛香里の結婚は成立した。
両家の顔合わせはオフィスビル近くの料亭で行われた。
近くのオフィスにいながらも、なかなか会う機会がない奏弥と幸樹だが、これからは家族として仲良くできる事をとても喜んでいた。
城原家は片親しかいないが、凜が両家の母親代わりになると言って張り切っている。
沢山の失われた命があった。
だが、その命の分重ねられた想いがある。
犯罪者の娘と言われ続け歪んだ人生を送った殺人鬼と呼ばれる里菜も、今はすっかり穏やかになり素直に罪を認めて刑に服している。
許せないと思っていた里菜に対して、愛香里は今では心から許すことが出来るようになった。
聖龍も、兄である凛太朗を殺され、妹の香恋と弟の香弥を殺され、ずっと里菜を憎み続けてきたが、香弥の命を受け継いでくれた愛香里が傍にいてくれる事で憎しみを薄れ許せるい持ちになって行った。
亡くなった元婚約者への気持ちは思い出に変わりつつあり、今は目の前にいる愛香里に愛を注いでいる。