あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
その後。
里菜は事情を聞かれ、男性社員に一方的に襲われたと言っていたが、男性社員はそんな事は一切していないと言っていた。
どちらの言い分も不確かで、接点と言えば同じ経理で、男性社員は里菜に間違いを指摘しただけだった。
後は防犯カメラを見て判断する事になり、里菜はとりあえず早退する事になった。
男性社員に注意をされた後に、里菜がものすごい目をして睨んでいたのを他の社員が見ている。
15時の休憩は、男性社員は他の男性社員と一緒に出て行き、里菜は後から出て行っている。
里菜が証言する場所に男性社員は通りかかっておらず、里菜が一人で歩いているのが防犯カメラに写っている。
実際に里菜が襲われたと言っている場所は、カメラの死角になる場所だが、男性社員はそこを通っていない。
話が完全に矛盾していて、男性社員が潔白である事はほぼ判明しているが、他の社員達が動揺している事もあり男性社員にはしばらく自宅待機をしてもらい別部署へ移動してもらう事を提案した。
自宅待機中に他の社員には、潔白である事は説明しておくと話をして納得してもらった。
だが、里菜はあくまでも自分は襲われたと言いはっていた。
これ以上騒ぎを大きくしたくない事もあり、奏弥は里菜にも部署移動を提案したが移動するな副社長の秘書以外は嫌だと言い出した事から一旦保留になった。
騒動も一段落して。
定時になり。
ヒカルは仕事をかたずけてエントラスへ降りてきた。
一日の仕事を終えてホッとする時間。
エントラスを出て歩いてくると、日が傾きかけて夕日が綺麗に輝いていた。
「そうなの、私は副社長と婚約しているのよ」
大きな声で喋る里菜の声が聞こえて、ヒカルは足を止めた。
里菜は数名の女子社員と一緒に歩いてきた。
まるで女王様のように、自慢げに聖龍と婚約していると話している里菜。
「本当は大学を卒業してすぐに結婚しる予定だったの、でもね、副社長の妹さんと弟さんが事故で亡くなったの。そのせいですぐには結婚できなくて、やっと同じ職場で働けるようになったのよ」
「副社長とは、どのくらいお付き合いしているのですか? 」
「ひょっとして、幼馴染とかですか? 」
「私と副社長は中学からの同級生で。家族公認の付き合いなの」
「そんな頃から」
「家族公認なら、安泰していますね」
すっかり里菜の話を信じて聞いている女子社員。
里菜は自慢げに話を続け、ヒカルの傍を女子社員達と通り過ぎて行った。