あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「あの…夕飯、一緒に食べませんか? 」
「あ、いえ…。もう、帰らないと…」
聖龍は壁の時計を見た。
時刻は19時30分を指していた。
「家はお近くですか? 」
「あ、あの…近いと言えばそうなのですが…」
「じゃあ、帰りは俺が送って行きますから。夕飯、一緒に食べましょう。俺が作りますから」
「え? そ、そんな」
「いいじゃないですか、せっかく来てくれたのですから」
来てくれたと言われても運ばれて来ただけで、招待されたわけじゃないけど…。
迷っているヒカルをよそに、聖龍はニコニコしながらキッチンへ向かった。
まだ何も言っていないのに…。
小さくため息をついたヒカルは、とりあえず家に連絡を入れるために壁にかけてあるジャケットを手に取った。
内ポケットから携帯電話を取り出し電話をかけ始めるヒカル。
「あ…すみません、連絡が遅くなりました。…同僚の方に、夕飯に誘われてしまったので。…帰りは送ってくれると言っています…。あ、いえ…分かりました。では、お願いします」
電話を切ったヒカルはまた小さくため息をついた。
暫くすると夕飯ができあがった。
美味しそうな和食で、焼き魚がとてもいい具合に焼きあがっていた。
ジャガイモの煮物と酢の物まで作っている。
男の人がこんなにも上手に作れるなんてと、ヒカルはちょっと驚いていた。
「どうぞ、座って下さい」
リビングの入り口に立っていたヒカルの手を引いて、聖龍が食卓の椅子に座らせてくれた。
食卓は4人掛けで、広めのテーブル。
茶色い木材で出来ていて、椅子はふんわりとしたクッションが敷いてある。
椅子を引いて座らせてもらえるなんて、まるでお姫様のようにエスコートしてもらったようだとヒカルは思った。
「ご飯、このくらいでいいですか? 」
かわいらしい花柄のピンクのお茶碗に、八文目くらいの量でご飯をよそってあった。
「はい、大丈夫です」
「足りなかったら、おかわりしてもいいですよ。今日は、何故か沢山炊いていたので。遠慮なく食べて下さい」
向かい側に座った聖龍は、手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。