あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
俺はゲイだから…
ヒカルも手を合わせて同じように「いただきます」と言って食べ始めた。
魚も煮物も酢の物も、全ての味付けがとても美味しくゆっくり食べていたヒカルも自然と表情がほころんできた。
そんなヒカルを見ながら食べている聖龍は、なんだか幸せそうな目をしていた。
「お魚食べるの上手なんですね」
ヒカルが綺麗に魚を食べているのを見て、聖龍が嬉しそうに言った。
「いえ…。いつも、ぐちゃぐちゃになってしまって…。よく、子供の頃は姉が魚をほぐしてくれていました」
「え? お姉さんがいるのですか? 」
「あ…はい…。もう…10年前に、亡くなりましたが…」
亡くなったと言ったヒカルの目が、悲しげに揺れるのを見た聖龍は、その気持ちが伝わってきてた。
10年前。
聖龍も兄の凛太朗を亡くした。
そして、好きだった人もいなくなってしまった。
同じくらいの時期に、ヒカルも悲しみを背負ったのだと思うと胸がキュンとなった。
「俺も、10年前に兄を事故で亡くしました」
「お兄さん…が? 」
「はい。俺、双子なんです。同じ日に産まれて、ずっと一緒だった兄が突然事故で亡くなって。その時…好きな人までいなくなってしまって。…もう、未来なんて俺にはないのだと思いました…」
ズキン…。
ヒカルは胸に痛みを感じた。
また発作が起こるのかな?
そう思ったが、痛みはすぐに消えて行った。
(びっくりした…。ずっと好きだった人じゃなくてね、その人のお兄さんに突然告白されちゃったの。すごく真剣な目をしていたんだけど、断ったの。だって、私が本当に好きな人は。お兄さんじゃなくて、弟さんの方だもん)
最後に姉から届いたメールにそう書いてあったのをヒカルは思い出した。
(今日ね、超嬉しい事があったの。居残りして掃除していたら、大好きな人が声かけてくれたんだ。掃除手伝うって言ってくれて、お願いしたかったけど。もう終わったところで、断ったんだけどね。お父さんが作ってくれた、キーホルダーに気づいてくれて。綺麗だねって、言ってくれたの。もう、その会話だけで何もいらないって思っちゃった)
嬉しそうに姉が話してくれた。
ただの何気ない会話なのに、姉はすごく喜んでいた。
なのに…
「城原さん…」
ハッとしてヒカルは聖龍を見た。
目と目が合うと、聖龍はとても優しく微笑んでくれた。