あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「あの…。2人の時は、名前で呼んでいいですか? 」
「え? 」
「ヒカルさんって、呼んでもいいでしょうか? 」
そんなこと、断ってから呼ぶことなのかな?
でも…きっと、この人はそれだけ律儀な人なんだ…。
「構いませんよ。…好きなように、呼んでい頂いて」
「本当ですか? 嬉しいです。俺の事も、名前で呼んでくれますか? 」
「あ…でも、自分は年下なので…」
「いいじゃないですか、2人の時に年齢の差なんて関係ありませんから」
「は…はい…」
ちょっと恥ずかしいから、きっと呼べないけど。
でもこの人は、私の事を男性としてみているのだろうか? それとも女性として見ているのだろうか?
男性でも構わないと言っていたけど。
ヒカルはちょと複雑な気持ちだった。
夕食を食べ終わる頃に、ヒカルの家から迎えが来た。
聖龍はご挨拶しておくと言って、一緒に下まで降りてきた。
道路わきに、黒い大きめの高級車が止まっていて、後部座席のドア付近に紺色のスーツにえんじ色のネクタイ姿の初老に差し掛かった白髪交じりのガッチリした男性が立っていた。
「お帰りなさいませ」
丁寧にお辞儀をしてヒカルを待っていた男性を見て、聖龍はちょっと驚いた。
柔らかそうな雰囲気ではあるが、目つきが鋭く警戒心強そうな男性を見て、そんな男性がヒカルに敬意を払っているとはどんな家なのだろうか? と、不思議に思ったのだ。
男性がお辞儀をしてヒカルを迎えると、助手席から一人の男性が降りてきた。
スラっと背の高い彫の深い顔立ちで、インテリーな眼鏡をかけたまだ40代後半くらいの爽やか系の男性。
高級スーツに身を包み、醸し出す雰囲気は上流家庭のおぼっちゃんのようではあるが、メガネの中の目つきがどこか鋭く感じる。
柔らかそうな栗色の髪質はヒカルと似ている感じがする。
「お帰り」
ニコッと優しい笑顔を向けてヒカルに声をかけてきた男性。
ヒカルは男性を見ると、深く頭を下げた。