あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
「ごめんなさい。遅くなりました…」
「いや、構わないよ。初日から大変だったね」
言いながら男性は聖龍を見た。
聖龍は男性と目と目が合うと、そっと頭を下げた。
「初日から申し訳ございませんでした。我が子が、大変ご迷惑をおかけしてしまったようで」
我が子?
聖龍は、なにか違和感を感じた。
「いえ、特に迷惑ではございませんのでお気になさらなず」
男性は聖龍の傍に歩み寄ってくると、スッと名刺を渡した。
受け取った名刺には、城原コンサルティング会社社長の肩書があり城原幸樹(しろはら・こうき)と書いてある。
「城原コンサルティング…お名前は存じ上げております。オフィスビルでも、大手で有名な会社ですから」
「ご存知なようで何よりです」
「自分は、宗田ホールディングで副社長をやっています。宗田聖龍と申します。すみません、今、名刺を持ち合わせていませんので」
「お気になさらず。これからも、我が子を宜しくお願いしますね」
「いえ、こちらこそ」
じゃあ、行こうかとヒカルに目で合図をした幸樹。
ヒカルはそっと聖龍に頭を下げて、後部座席に乗った。
幸樹も助手席に乗り、そのまま車は去って行った。
聖龍は車が見えなくなるまで見送った。
「城原コンサルティングのお子さん…。あんなに大手なのに、どうして我が社に来てくれたのだろう…」
見送りながら聖龍は違和感を感じていた。
父親だと名乗った幸樹は、ヒカルの父親にしては若すぎるような気がした。
メガネの奥の鋭そうな目つきは、ヒカルに似ているとは思うが、どこかよそよそしく親子のような関係性には見えなかった。
ガッチリとした運転手らしき人も威圧的な感じで…。
何か秘密がありそうに感じた。
帰りの車の中。
後部座席で黙ったまま俯いているヒカルを、ミラー越しに見ている幸樹は、小さく笑いを浮かべていた。
「どうかしたのかい? そんなに、深刻そうな顔をして」
幸樹に声をかけられると、ヒカルはハッとなり顔を上げた。
顔を上げたヒカルを見ると、幸樹は何か察したようだ。
「彼と、何かあったのかい? 」
「あ…いいえ…」
思わず聖龍にキスをされた事を思い出し、ヒカルはドキッとしたが顔には出さなかった。
しかし幸樹はそれを見抜いたようだった。