あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…

「無理をしなくていいんだよ、彼には近づかないって私と約束したけど。運命には逆らえないからさっ」
「何を言っているのですか? 何もないですから」
「でも彼は、とても真剣で誠実な目をしていたよ。なんとなく、私の事を見透かされているような気がしたけどね」
「そんな事ありません。急に、倒れてしまったので心配しているだけです」
「そうか」

 必死に否定するヒカルを見ていると、幸樹は何となく辛くなった。
 
「私は…君には、誰よりも幸せになってほしいって思っているんだよ。…君が幸せにある為なら、私は全ての資産を渡しても構わないと思っている」
「そんな…だって、輝樹(てるき)さんもいるじゃないですか」
「ああ、そうだよ。輝樹も君の幸せを誰よりも願っているんだよ」
 
 ヒカルは黙ってしまった。
 幸樹もこれ以上は何を言っても無駄だと思い、その後は黙っていた。


 
 ヒカルの家は聖龍の家から車で10分程の場所にある、古風な一件家。
 昔ながらの建て具合だが、新築して建て替えたのかまだ真新しい感じがする。 
 2階建ての平屋で、引き戸の門があり玄関まで石畳が広がり砂利もある。
 庭は日本庭園のようで、お茶会でもできそうな雰囲気が漂っていて、大きめの池がある。
 池には石橋が掲げてあり、その奥には立派な松の木が立っていてちょっとした森林のようになっている。
 花壇もあり手入れが行き届いていて、今は綺麗な赤いバラの花が咲き並んでいる。


 玄関も大きな引き戸で両脇にはいかつい顔をしたボディガードらしき男性が、立っている。

 
 ヒカルと幸樹がやってくると、2人の男性はガラッと玄関を開けた。


 玄関を入ると広い土間。
 ちょっと段差はあるが、上がりやすいように階段のようになっている。

 綺麗な板が張り詰められ、長い廊下の途中には20畳くらいの広い和室に、立派な仏壇が置いてある。
 仏壇の傍には代々のお先祖の写真が飾ってある。

 和室を通り過ぎると、2回へ続く階段がある。
 階段を通り過ぎ奥へ向かうと、広いサロンのようなリビングとキッチン。

 キッチンにはお手伝いがいて、家事をやってくれている。

 リビングにはフカフカの白いソファーとオシャレなガラスのテーブル。
 窓際には観葉植物が置いてあり、爽やかな青いカーテンが敷いてある。

 6人掛けの縦長の食卓テーブルに、ゆったりとした椅子が並んでいる。

 
 幸樹は一息つくために食卓の椅子に座った。
 ヒカルは2階の自分の部屋に向かったようだ。


 幸樹が座ると、お手伝いが暖かい緑茶を持ってきた。
「有難う」

 緑茶を飲んで一息ついた幸樹。

 ピピッ。
 携帯電話が鳴りジャケットの内ポケットから取り出した。

 着信を見ると見知らぬ番号からで首をかしげた。

「はい、城原です」
(城原コンサルティングの社長さん? )
「はい、そうですが。どちら様でしょうか? 」
(私、千堂里奈。…覚えているでしょう? 貴方が、逮捕した女だもの)
「…何か御用でしょうか? 」
(なにかあれば、助けてくれるのよね? 一応、貴方が私の保護司なんだから)
「まぁ、それはそうですが。できる事と、できない事があります」
(ふーん。貴方に頼みたいのはね、お金。みんないなくなってしまったから、頼れるのは貴方しかいないの。悪いけど、100万用意してくれないかしら? 新しい就職先が決まったのだけど、まだお給料頂いてなくて。生活に困っているの。アパートの家賃も払えなくて追い出されそうなの。用意してくれるわよね? 私の保護司なんだから)

 幸樹はちょっと黙っていた。
 
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