あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
(…知っている? 足はね、踏んだ方が忘れても踏まれたほうは忘れないのよ。…たとえ、アンタが私を殺しても。私はずっと、忘れない…。そして、私の遺志をついでアンタに報復する人だっているわよ)
「なんなのよ! 死んだ人間が、偉そうに! そんな気落ち悪い姿で出て来たって、何も出来やしないでしょ! 」
(それはどうかしら? 世の中には呪いって言葉も、あるから…)
「ばかばかしい! 殺されたって、もう10年も前の事。何も証拠なんかでてこないわよ! 気持ち悪いデブ! さっさと消えなさいよ! 死にぞこない! 」
血まみれの女子高生に怒鳴っている里菜だが、
通り過ぎる社員達には、里菜が一人で怒鳴っている姿しか見えていない。
殺されたとか、死にぞこないとか怒鳴っている里菜を見て、社員達は気が狂っているのではないかと警戒して通りすぎて行った。
エレベーターで最上階まで向かった聖龍とヒカルは、エレベーター内では一言も喋らないままだった。
エレベーターを降りて、ヒカルはじっと聖龍を見つめた。
聖龍もじっとヒカルを見つめた…。
「あの…御冗談ですよね? 先ほどの事は…」
「いや、本気です」
「本気なのですか? 」
「昨晩、俺の気持ちは伝えましたよね? ずっと一緒にいて下さいと」
「はい。確かに伺いましたが…」
「隠し事はしたくありません。誰に何を言われても構わないので、ヒカルさんと堂々とお付き合いしたいと思います」
「それは…自分の事を、男性と見て言ってくれているのですよね?」
ん? と、聖龍はちょっとヒカルの顔を覗き込んだ。
男性と見て…そうしておいた方が、今はいいかもしれない…。
聖龍はそう思った。
「そうですね。ヒカルさんが、男性として見て欲しいのであればそうします」
なんか曖昧な言い方…。
でも…
「わかりました。それなら、そうします」
「よかった。受け入れてもらって」
今はそうしておこう。
ヒカルはそう思った。
そのまま聖龍は副社長室へ、ヒカルは社長室へ向かった。
そんな2人の様子を、遠くから見ていた奏弥がいた。